AHA IE guideline update 2015 その5 外科手術編
AHAの心内膜炎のガイドライン抄訳第5弾は手術編です。青字は管理人のコメントです。
◇外科的マネジメント
心内膜炎に対する手術といえば2012年に韓国から早期手術のベネフィットを示したRCTがでて話題になりました。本ガイドラインの本文中にもこの論文について言及されていますが、S. aureusの症例が少ないこと、単施設の研究であること、症例数が少ないことなどから確たる結論は導き出せないとしています。
この領域ではRCTを行うのが困難で、観察研究が主体とならざるを得ません。そのためバイアスの排除やリスク因子の調整などが必要になります。今回のガイドライン改訂でも推奨に大きな変化はでていないようです。
◆左心系の自然弁心内膜炎での早期手術
ここでの早期手術(Early surgery)とは「最初の入院中に抗菌薬の全投与期間終了前に行う手術」を指しています。
1. 弁の機能不全で心不全の症状か所見が現れている場合は早期手術の適応である。(Class I; Level of Evidence B).
2. 真菌か高度耐性菌(VRE、MDRのGNR)による心内膜炎の場合は早期手術を検討すべきである。(Class I;Level of Evidence B).
3. 心ブロック、弁輪または大動脈の膿瘍、穿通性の破壊性病変がある場合は早期手術の適応である。 (Class I; Level of Evidence B).
4. 適切な抗菌薬の開始後も感染が持続する場合は早期手術の適応である。(Class I;Level of Evidence B).
感染が持続している状態とは
・持続性の菌血症
・他の部位の感染による発熱が除外されても5-7日の発熱が続いている場合
5. 適切な抗菌薬投与にも関わらず塞栓症が反復したり、疣贅が大きくなってくる場合は早期手術が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).
6. 重症の弁逆流があるか、可動性の10mm以上の大きさの疣贅がある場合は早期手術が妥当である。(Class IIa, Level of Evidence B).
7. 可動性のある10mm以上の疣贅があって、特にそれが僧帽弁の前尖ある場合、他の相対的な手術適応もあれば手術を考慮する。 (Class IIb; Level of Evidence C).
◆人工弁心内膜炎での早期手術
1. 弁の離開、心内の瘻孔、重度の人工弁んの機能不全のために心不全の症状か所見が出現している患者は早期手術の適応である。(Class I; Level of Evidence B)
2. 適切な抗菌薬投与にも関わらず5-7日間血液培養陽性が続いて、他の部位の感染症が除外されている場合は早期手術を行うべきである。(Class I; Level of Evidence B).
3. 心ブロック、弁輪または大動脈の膿瘍、穿通性の破壊性病変がある場合は早期手術の適応である。 (Class I; Level of Evidence B).
4. 真菌か高度耐性菌による人工弁の心内膜炎の場合は早期手術の適応である。(Class I;Level of Evidence B)
5. 適切な抗菌薬投与にも関わらず塞栓症を繰り返す人工弁の心内膜炎では早期手術が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).
6. 再発した人工弁の心内膜炎は早期手術が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
7. 可動性の10mm以上の疣贅がある場合は早期手術を検討する。(Class IIb; Level of Evidence C).
◆右心系心内膜炎での手術
例によって右心系心内膜炎は米国では静注薬物乱用者(IVDU)が主体なので、その前提の記載です。もともとIVDUの右心系IEは治りやすい、というのとIEの治療が終わっても薬物濫用が続く可能性があるので心臓に異物を残す外科治療は避けた方がよい、というお話。
1. 右心系の心内膜炎ではなんらかの合併症があれば外科治療が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
2. 可能であれば弁置換よりも弁の修復を行うべきである。(Class I; Level of Evidence C).
3. 弁置換を行う場合は、症例にあわせて外科医が人工物を選択するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
4. 静注薬物乱用者では可能であれば手術を避けるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
◆脳梗塞/脳出血を合併した患者での弁手術
これは以前から議論されている問題です。脳梗塞を起こした患者さんに心臓外科手術をすると、術中の抗凝固のために出血性梗塞になってしまったり、術中の低血圧で脳梗塞の症状が悪化することがあるので、脳梗塞を合併した場合いつ頃手術をするのがよいのか、というのが議論されてきました。これについてはすでにとある感染症専門医のブログの過去記事でもまとめられていますので参考にどうぞ。
観察研究の結果から脳梗塞の場合発症から4週間をすぎると術後の死亡リスクが低くなるということが導かれて、4週間という数字の根拠となっています。
1. 脳梗塞か、無症候性の塞栓があり、疣贅が残っている場合、脳出血が画像的に除外されて、神経学的ダメージが重度(昏睡など)でなければ遅らせずに手術を行うことを検討する。(Class IIb; Level of Evidence B).
2. 重度の脳梗塞か脳出血がある場合は最低4週間は手術を遅らせるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).
次回は合併症のマネジメントについて
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