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2015年12月

2015年12月22日 (火)

AHA IE guideline update 2015 その5 外科手術編

AHAの心内膜炎のガイドライン抄訳第5弾は手術編です。青字は管理人のコメントです。

◇外科的マネジメント
心内膜炎に対する手術といえば2012年に韓国から早期手術のベネフィットを示したRCTがでて話題になりました。本ガイドラインの本文中にもこの論文について言及されていますが、S. aureusの症例が少ないこと、単施設の研究であること、症例数が少ないことなどから確たる結論は導き出せないとしています。
この領域ではRCTを行うのが困難で、観察研究が主体とならざるを得ません。そのためバイアスの排除やリスク因子の調整などが必要になります。今回のガイドライン改訂でも推奨に大きな変化はでていないようです。

◆左心系の自然弁心内膜炎での早期手術
ここでの早期手術(Early surgery)とは「最初の入院中に抗菌薬の全投与期間終了前に行う手術」を指しています。

1. 弁の機能不全で心不全の症状か所見が現れている場合は早期手術の適応である。(Class I; Level of Evidence B).

2. 真菌か高度耐性菌(VRE、MDRのGNR)による心内膜炎の場合は早期手術を検討すべきである。(Class I;Level of Evidence B).

3. 心ブロック、弁輪または大動脈の膿瘍、穿通性の破壊性病変がある場合は早期手術の適応である。 (Class I; Level of Evidence B).

4. 適切な抗菌薬の開始後も感染が持続する場合は早期手術の適応である。(Class I;Level of Evidence B).
感染が持続している状態とは
・持続性の菌血症
・他の部位の感染による発熱が除外されても5-7日の発熱が続いている場合

5. 適切な抗菌薬投与にも関わらず塞栓症が反復したり、疣贅が大きくなってくる場合は早期手術が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).

6. 重症の弁逆流があるか、可動性の10mm以上の大きさの疣贅がある場合は早期手術が妥当である。(Class IIa, Level of Evidence B).

7. 可動性のある10mm以上の疣贅があって、特にそれが僧帽弁の前尖ある場合、他の相対的な手術適応もあれば手術を考慮する。 (Class IIb; Level of Evidence C).

◆人工弁心内膜炎での早期手術
1. 弁の離開、心内の瘻孔、重度の人工弁んの機能不全のために心不全の症状か所見が出現している患者は早期手術の適応である。(Class I; Level of Evidence B)

2. 適切な抗菌薬投与にも関わらず5-7日間血液培養陽性が続いて、他の部位の感染症が除外されている場合は早期手術を行うべきである。(Class I; Level of Evidence B).

3. 心ブロック、弁輪または大動脈の膿瘍、穿通性の破壊性病変がある場合は早期手術の適応である。 (Class I; Level of Evidence B).

4. 真菌か高度耐性菌による人工弁の心内膜炎の場合は早期手術の適応である。(Class I;Level of Evidence B)

5. 適切な抗菌薬投与にも関わらず塞栓症を繰り返す人工弁の心内膜炎では早期手術が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).

6. 再発した人工弁の心内膜炎は早期手術が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).

7. 可動性の10mm以上の疣贅がある場合は早期手術を検討する。(Class  IIb;  Level  of Evidence C).

◆右心系心内膜炎での手術
例によって右心系心内膜炎は米国では静注薬物乱用者(IVDU)が主体なので、その前提の記載です。もともとIVDUの右心系IEは治りやすい、というのとIEの治療が終わっても薬物濫用が続く可能性があるので心臓に異物を残す外科治療は避けた方がよい、というお話。
1. 右心系の心内膜炎ではなんらかの合併症があれば外科治療が妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence C).

2. 可能であれば弁置換よりも弁の修復を行うべきである。(Class I; Level of Evidence C).

3. 弁置換を行う場合は、症例にあわせて外科医が人工物を選択するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).

4. 静注薬物乱用者では可能であれば手術を避けるのが妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence C).

◆脳梗塞/脳出血を合併した患者での弁手術
これは以前から議論されている問題です。脳梗塞を起こした患者さんに心臓外科手術をすると、術中の抗凝固のために出血性梗塞になってしまったり、術中の低血圧で脳梗塞の症状が悪化することがあるので、脳梗塞を合併した場合いつ頃手術をするのがよいのか、というのが議論されてきました。これについてはすでにとある
感染症専門医のブログの過去記事でもまとめられていますので参考にどうぞ。
観察研究の結果から脳梗塞の場合発症から4週間をすぎると術後の死亡リスクが低くなるということが導かれて、4週間という数字の根拠となっています。

1. 脳梗塞か、無症候性の塞栓があり、疣贅が残っている場合、脳出血が画像的に除外されて、神経学的ダメージが重度(昏睡など)でなければ遅らせずに手術を行うことを検討する。(Class IIb; Level of Evidence B).

2. 重度の脳梗塞か脳出血がある場合は最低4週間は手術を遅らせるのが妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence B).

 

次回は合併症のマネジメントについて

2015年12月21日 (月)

AHA IE guideline 2015 update その4 その他の微生物編

AHAの心内膜炎ガイドラインの抄訳。第4弾はその他の微生物です。青字は管理人のコメントです。

◇HACEK群
発育の難しいグラム陰性桿菌の頭文字をとったHACEKです。( Haemophilus  species, Aggregatibacter species, Cardiobacterium hominis, Eikenella corrodens, and Kingella species)

1. 感受性検査を行うのに十分な菌量が得られた場合以外は、HACEK群の微生物はアンピシリン耐性とみなすべきである。ペニシリンとアンピシリンはHACEK群によるIEの治療に用いてはならない。(Class III; Level of Evidence C).

2. HACEK群のIEの治療にはセフトリアキソンを用いるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).

3. 自然弁のHACEKによる心内膜炎の治療期間は4週間が妥当、人工弁の場合は6週間が妥当。(Class IIa; Level of Evidence C).

4. ゲンタマイシンは腎毒性のため推奨しない。(Class III; Level of Evidence C).

5. セフトリアキソン(または他の3-4世代のセファロスポリン系)が使えない場合は、キノロン系(シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン)を代替薬として検討してもよい。(Class IIb; Level of Evidence C).

6. アンピシリンスルバクタムも治療オプションとして考慮される。(Class  IIb;  Level  of Evidence C).

7. HACEK群によるIEの患者でセフトリアキソンが使えない場合は感染症専門医にコンサルトすること。 (Class I; Level of Evidence C).

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◇HACEK以外のグラム陰性桿菌

1. HACEK以外のグラム陰性好気性菌(特に緑膿菌)による心内膜炎に対しては抗菌薬の長期投与と手術を行うのが妥当である。(Class IIb; Level of Evidence B).

2. βラクタム(ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム)とアミノグリコシドかキノロン系を組み合わせて6週間治療するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
この場合のアミノグリコシドの投与法はどうすべきか?記載はなし。ケースバイケースでしょう。

3. HACEK以外のグラム陰性好気性菌には様々な耐性メカニズムがあるので感染症専門医にコンサルトすべきである。(Class  I;Level of Evidence C).
ESBL、AmpCなど考えるべき耐性がいろいろあります。

 

◇培養陰性の心内膜炎

1. 培養陰性心内膜炎では疫学、心血管感染症の既往、抗菌薬投与歴、臨床経過、重症度、心臓以外の感染症の症状などの病歴を評価する。(Class I; Level of Evidence C).

2. 培養陰性心内膜炎では最も適切な抗菌薬を選択するため感染症専門医へのコンサルトを推奨する。(Class I; Level of Evidence C).

3. 自然弁で急性の経過(日の単位)の場合はS. aureus、β溶連菌、好気性グラム陰性桿菌をカバーするのが妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence C).

4. 自然弁で亜急性の経過(週の単位)の場合はS. aureus、Viridans group streptococcus、HACEK、腸球菌をカバーするのが妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence C).

5. 人工弁入れ替えから1年の以内の人工弁心内膜炎の場合は、ブドウ球菌、腸球菌、好気性グラム陰性桿菌をカバ-するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).

6. 人工弁入れ替えから1年以上経過した人工弁心内膜炎の場合は、ブドウ球菌、Viridans group streptococcus、腸球菌が原因になることが多くなるので、これらをカバーした治療が妥当である。(Class IIa;

Level of Evidence C).

7. 血液培養か、他の検査法で微生物が明らかとなった場合は、微生物に特異的な治療に変更する。(Class I; Level of Evidence C).

具体的なレジメンの推奨はこちらにはありません。2005年版ではいくつかのレジメンの例が本文中に記載がありましたが。

ちょっと脱線しますが、経験的な治療を考えるときにはヨーロッパのガイドラインを参照していました。今回
ヨーロッパのガイドラインも2015年中にかわっていて見なおしてみましたが、前回の版とは経験的な治療の記載がかわっています。前回は自然弁ではABPC/SBT+GMなどが書いてありましたが、ESCの2015ではABPC+Cloxacillin+GMになっています。これはMSSAに対してはβラクタムがみんな同等というわけではない、という報告をベースにしているようです。この辺は議論がわかれるところです。

◇真菌
カンジダは血培から生えますが、Aspergillusはほとんど生えません。

1. 真菌による心内膜炎では手術を行うべきである。(Class I; Level of Evidence B).
真菌の心内膜炎はそれだけで手術適応( “stand-alone indication”)という記載です。そういう英語表現があるというのが勉強になります。

2. 初期の静注による治療を完了した後、生涯にわたりアゾール系内服薬でサプレッションをかけるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).
アゾール耐性のカンジダだったらどうすんだよ…というところには答は書いていません。たぶん新しくなったカンジダのガイドラインを見ても多分みつからないでしょう。

次回は外科治療について。

2015年12月17日 (木)

AHA IE guideline 2015 update その3 Enterococcus編

ちょっと時間があきましたが、AHAの心内膜炎ガイドラインUpdate Recommendationの訳第3弾、Enterococcusです。   

 

◇Enterococcus   
1. Enterococcusはシナジー作用を予測するためペニシリンとバンコマイシンの感受性を測定し、高濃度ゲンタマイシンの感受性をルーチンに測定すべきである。(Class I;Level of Evidence A).    
基本的なことですが、一応解説すると、Enterococcusのアミノグリコシド感受性をみるときは高濃度でみなくてはいけません。グラム陰性桿菌と同じ濃度で調べると必ず耐性で返ってきます。GMでMIC>500μg/mL、SMでMIC>1000μg/mLで高度耐性です。血液培養から出た腸球菌でもルーチンで高濃度耐性をみる施設はあまりないでしょうから、普通は検査室に特別に依頼する必要があります。    
      
2. βラクタム、バンコマイシン、アミノグリコシドに耐性の株ではダプトマイシンとリネゾリドの感受性を測定すべきである。(Class I;Level of Evidence C).   

 

○腸球菌によるIEの治療におけるアミノグリコシドの役割   
1. Enterococcusの心内膜炎に対し腎機能正常の患者ではゲンタマイシンは1日複数回投与(3mg・kg/日)投与すべきである。(1日1回投与法は用いない) (Class I; Level of Evidence B).    
Streptococcusでは1日1回投与法でしたが、腸球菌では複数回投与法のままです。これは大丈夫というデータがまだ足りないので、というのが理由のよう。   
    
2. ゲンタマイシンは8時間毎に投与し、投与1時間後の血中濃度~3μg/mL、トラフ濃度<1μg/mLとなるように投与量を調節する。(Class IIa; Level of Evidence B).      

 

○アンピシリン、ペニシリン、バンコマイシン、アミノグリコシドに感受性の腸球菌による心内膜炎の治療   
1. アンピシリンか水性ペニシリンGにゲンタマイシンかセフトリアキソンを加えた治療が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).   
いよいよガイドラインにも登場のアンピシリン+セフトリアキソンというダブルβラクタム治療。初めて聞いた時はまさか、と思いましたが臨床試験で効果が確かめられたのでだいぶ推奨度が上がってきました。結合するPBPが違うからだという説明になっています。ところで腸球菌の血流感染症の治療にペニシリンGを使ったことは個人的にはありません。    
    
2. 自然弁の場合は4-6週間の治療が妥当。ペニシリン(アンピシリン)+ゲンタマイシンの治療を開始されるまでにどれくらい症状が続いてたかによる。(Class  IIa;  Level  of Evidence B).      
3ヶ月未満なら4週間、3ヶ月以上なら6週間ということになっています。   
    
3. アンピシリン+セフトリアキソンで治療するなら症状の持続期間にかかわらず6週間が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).      

4. 人工弁の場合は6週間の治療が妥当。(Class IIa; Level of Evidence B).      
      
5. クレアチニンクリアランスが<50mL/minの場合はストレプトマイシンの使用は避ける。(Class III; Level of Evidence B).      
      
6. Enterococcusがゲンタマイシンとストレプトマイシンの両方に感受性がある場合はゲンタマイシンを選択するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).      
      
7. ゲンタマイシンが使えない場合はβラクタム併用療法を用いるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).
   
腸球菌のIEは高齢者なんかに多いので、腎臓に問題を起こしにくいレジメンを使う機会は増えるかもしれません。

 

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○アンピシリン、ペニシリンに感受性だが、アミノグリコシド耐性の場合。またはゲンタマイシン耐性、ストレプトマイシン感受性の場合      
1. アミノグリコシド耐性腸球菌の場合はセフトリアキソン+アンピシリンを使用するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).    
上述のように「高濃度耐性」です。      
   
2. ゲンタマイシン耐性、ストレプトマイシン感受性の場合もセフトリアキソン+アンピシリンを使用するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B)    
つまりペニシリンとの併用薬の優先順位はゲンタマイシン≒セフトリアキソン>ストレプトマイシン、ということのようです。セフトリアキソンの方が報告されている症例数も多いのでストレプトマイシンよりも優先度が高いだろうというのがその根拠。    
日本では高濃度アミノグリコシド耐性の検査の結果を待つ間にメンドクサイからセフトリアキソンにしちゃえ、みたいなプラクティスが増えるのかな…

 

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○βラクタムが使えないか、ペニシリン耐性の場合のバンコマイシンによる治療      
1. バンコマイシンを投与するのはペニシリンGかアンピシリンの投与に患者が耐えられない場合に限るべきである。(Class I;Level of Evidence B)    
      
2. 自然弁の心内膜炎の場合はバンコマイシン+ゲンタマイシンを6週間、人工弁の場合は最低6週間でそれ以上を投与するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).      
      
3. ペニシリンに自然耐性のE. faecalisによる心内膜炎の場合はバンコマイシン+ゲンタマイシンで治療するべきである。(Class I; Level of Evidence B).
   
残念ですがここにはセフトリアキソンの出番はありません。

 

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○ペニシリン、アミノグリコシド、バンコマイシンに耐性のEncterococcusによる心内膜炎の治療   
1. ペニシリン、アミノグリコシド、バンコマイシンに耐性のEnterococcusによる心内膜炎は、感染症、循環器、心臓外科、臨床薬物学の専門家、必要に応じて小児科の専門家が管理すべきである。(Class I; Level of Evidence C)

 

2. ダプトマイシンによる治療を選択した場合、1日あたり10-12mg/kgの投与を考慮する。(Class IIb;Level of Evidence C).    
ここではダプトマイシンの話になっていますが、選択肢にはリネゾリドもあります(表を参照) 日本でも米国でもダプトマイシンは腸球菌の治療には認可されていません。ご注意を。   
   
3. 血液培養が陰性化しないか、Enterococcusのダプトマイシンに対するMICが感受性の範囲内で高め(3 µg/mL )の場合は、ダプトマイシンとアンピシリンかセフトリアキソンの組み合わせも考慮する。    
ほとんどケースレポートレベルのデータしかない世界です。

 

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次回はその他の微生物編を予定。

2015年12月 1日 (火)

AHA IE guideline 2015 update その2 Staphylococcus編

AHAの心内膜炎ガイドラインUpdate Recommendationsの訳第2弾はStaphylococcusです。今回はIEという言葉のかわりに心内膜炎という言葉にしています。検索にひっかかりやすくするためです。最初に自然弁、それから人工弁についての記載になっています。ところどころに青字で管理人のつぶやきが入ります。

 

   
◇Staphylococci   
1. 弁輪周囲への進展、心外の転移性病巣などの心内膜炎の合併症が出現していないかを継続的に監視するのが妥当である。      
(Class IIa; Level of Evidence C).

 

◆人工弁、異物のない状況でのStaphylococusによる心内膜炎    
○静注薬物乱用者の右心系心内膜炎      

1. Staphylococcusによる右心系の心内膜炎にゲンタマイシンの追加は推奨しない。(Class III; Level of Evidence B).      
静注薬物乱用者(IDU)の右心系心内膜炎は経験的に治療に反応がいいことが知られているので、そこまでやらんでもいいよっていう意味。日本ではあまり役に立たない知識です。

 

○静注薬物乱用者以外の感染性心内膜炎      
1. ゲンタマイシンはMSSAでもMRSAでも自然弁の心内膜炎の治療に使うべきではない。(Class III; Level of Evidence B).      
 とうとうMSSAによる自然弁のIEの推奨でゲンタマイシンが外されました。2005年までは最初の3-5日の追加が推奨されていましたが、効果が確かでなく腎機能障害が多いという報告があり推奨されなくなりました。心内膜炎に対するダプトマイシンの臨床試験でもアミノグリコシドの併用を行った標準治療群で腎機能障害の出現が多かった、というのも根拠になったようです。       
 
2. MSSAによる心内膜炎で脳膿瘍を合併した場合、セファゾリンではなくナフシリンを用いるべきである。ナフシリンが使えない場合はバンコマイシンを用いる。(Class I; Level of Evidence C).   
セファゾリンに中枢神経系移行がないのはかなり有名になってきました。抗ブドウ球菌ペニシリンが手に入らない日本の感染症科医にとっての大問題、MSSAがBBBの向こう側に入っちゃったらどうしよう問題に対してあっさりバンコマイシン使え、ということになっています。根拠は記載なし…      
      

3. S. aureusの菌血症でオキサシリン感受性がわかるまでバンコマイシンと抗ブドウ球菌用βラクタムを併用するのが役に立つかどうかは明らかではない。(Class IIb; Level of Evidence B)   
MSSAの菌血症に対してバンコマイシンで治療すると予後が悪いという話がありましたので、感受性がわかるまではβラクタムとバンコマイシンを併用した方がよいのではないか?という話がありました。この件についてはデータ不足ということもあり、保留の立場のようです。      
      

4. ペニシリン感受性のStaphylococcusによる心内膜炎は水性ペニシリンGではなく、抗ブドウ球菌用のβラクタムで治療するべきである。理由は一般的な検査室ではペニシリンの感受性を検出できないからである。(Class I; Level of Evidence B).      
 これも時々話題になりますね。S. aureusが本当にペニシリナーゼを産生しないかどうかを検査するのは難しいので、ペニシリンGに感受性とでても使うのはやめておけ、という立場ですね。表現形とペニシリナーゼ遺伝子の関連についてはこちらの論文が参考になります。 
   
5. MSSAによる合併症のない左心系の自然弁心内膜炎にはナフシリンか同等の抗ブドウ球菌ペニシリンの6週間投与を推奨。合併症がある場合には最短6週間の治療を推奨。(Class I; Level of Evidence C).      
       
6. MRSAによる左心系の心内膜炎に対してダプトマイシンは代替薬として妥当である。(Class IIb; Level of Evidence B).       

ダプトマイシンはまだ代替薬の扱いですね。MRSAのガイドラインでは同じくらいの推奨度でしたが、こちらではバンコマイシンの方がより強く推奨されています。     
   
7. ダプトマイシンの投与量は感染症専門医にコンサルテーションして選択するべきである。(Class I; Level of Evidence C).
もともとは6mg/kgでしたが、最近は8-10mg/kgがよいのでは、という話があります。というか出てきてからわりとすぐに多いほうがいいんじゃね、という話になったような気がします。

 

○βラクタムにアレルギーがあるか、使えない場合のMSSAによる心内膜炎の治療      
1. ペニシリンに対してアナフィラキシー以外の反応の既往が確実な場合はセファゾリンが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).      
       
2. MSSAによる心内膜炎の治療にバンコマイシンの使用を考慮しなければならない場合は必ずβラクタムが使用できないかアレルギーの評価をするべきである。 (Class I; Level of Evidence B).       
       
3. 心内膜炎の再発率が高いのでクリンダマイシンの使用は推奨しない。(Class III; Level of Evidence B).
   
ふだんはあまり意識しない殺菌性か静菌性かという話がここでは重要です。引用されている文献によるとかなり昔から知られていたことのようであります。      
      

4. MSSAによる左心系の心内膜炎に対してバンコマイシンのかわりにダプトマイシンを使うのも妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).

 

○追加、併用治療      
1. Stpahylococcusによる自然弁の心内膜炎の治療にルーチンでリファンピシンを追加するのは推奨しない。(Class III; Level of Evidence B).      
どうしても血培が消えない時なんかに追加されることはあるだろうけど、結局薬の問題じゃないことの方が多いですよね。     
      
2. バンコマイシン耐性のStaphylococcusによる心内膜炎の治療は感染症専門医にコンサルトするべきである。(Class I; Level of Evidence C).      
コンサルトされても正直困るなぁ…

 

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◆人工物がある状況での感染性心内膜炎    
○コアグラーゼ陰性ブドウ球菌      

1. バンコマイシンとリファンピシンを最低6週間、初期2週間のみゲンタマイシンを追加して投与する。(Class I; Level of Evidence B).      
菌量が多いとリファンピシンは耐性をとられやすいので十分にバンコマイシンが効いてくるまで数日併用を待てという意見もあるよ、と紹介されています。理由はどうであれなんでもかんでも同時に突っ込むと副作用が出た時に混乱するので、待てるものなら少し待つというのは悪くないように思われます。      
      

2. コアグラーゼ陰性ブドウ球菌がゲンタマイシンに耐性の場合は、感受性のある別のアミノグリコシドを使用してもよいかもしれない。(Class IIb; Level of Evidence C).      
 別のアミノグリコシド…アルベカシンも含むのかしら?私にもわかりません。 
 
3. コアグラーゼ陰性ブドウ球菌がすべてのアミノグリコシドに耐性の場合は、感受性のあるキノロンを使用してもよいかもしれない。(Class IIb; Level of Evidence C)      
       
4. 細菌学的に再燃がみられた場合は、手術検体か血液の培養で検出された細菌の感受性をすべて慎重にやりなおすべきである。(Class I; Level of Evidence C)

 

○S. aureus      
1. 組合せの抗菌薬治療を推奨。(Class I; Level of Evidence C).      
2. βラクタムのレジメンでもでもバンコマイシンのレジメンでもゲンタマイシンを最初の2週間追加する。(Class I; Level of Evidence C).       

自然弁では用済みになってしまったアミノグリコシドもまだ人工弁では現役です。

 

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次回は腸球菌編です。

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