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2015年12月 1日 (火)

AHA IE guideline 2015 update その2 Staphylococcus編

AHAの心内膜炎ガイドラインUpdate Recommendationsの訳第2弾はStaphylococcusです。今回はIEという言葉のかわりに心内膜炎という言葉にしています。検索にひっかかりやすくするためです。最初に自然弁、それから人工弁についての記載になっています。ところどころに青字で管理人のつぶやきが入ります。

 

   
◇Staphylococci   
1. 弁輪周囲への進展、心外の転移性病巣などの心内膜炎の合併症が出現していないかを継続的に監視するのが妥当である。      
(Class IIa; Level of Evidence C).

 

◆人工弁、異物のない状況でのStaphylococusによる心内膜炎    
○静注薬物乱用者の右心系心内膜炎      

1. Staphylococcusによる右心系の心内膜炎にゲンタマイシンの追加は推奨しない。(Class III; Level of Evidence B).      
静注薬物乱用者(IDU)の右心系心内膜炎は経験的に治療に反応がいいことが知られているので、そこまでやらんでもいいよっていう意味。日本ではあまり役に立たない知識です。

 

○静注薬物乱用者以外の感染性心内膜炎      
1. ゲンタマイシンはMSSAでもMRSAでも自然弁の心内膜炎の治療に使うべきではない。(Class III; Level of Evidence B).      
 とうとうMSSAによる自然弁のIEの推奨でゲンタマイシンが外されました。2005年までは最初の3-5日の追加が推奨されていましたが、効果が確かでなく腎機能障害が多いという報告があり推奨されなくなりました。心内膜炎に対するダプトマイシンの臨床試験でもアミノグリコシドの併用を行った標準治療群で腎機能障害の出現が多かった、というのも根拠になったようです。       
 
2. MSSAによる心内膜炎で脳膿瘍を合併した場合、セファゾリンではなくナフシリンを用いるべきである。ナフシリンが使えない場合はバンコマイシンを用いる。(Class I; Level of Evidence C).   
セファゾリンに中枢神経系移行がないのはかなり有名になってきました。抗ブドウ球菌ペニシリンが手に入らない日本の感染症科医にとっての大問題、MSSAがBBBの向こう側に入っちゃったらどうしよう問題に対してあっさりバンコマイシン使え、ということになっています。根拠は記載なし…      
      

3. S. aureusの菌血症でオキサシリン感受性がわかるまでバンコマイシンと抗ブドウ球菌用βラクタムを併用するのが役に立つかどうかは明らかではない。(Class IIb; Level of Evidence B)   
MSSAの菌血症に対してバンコマイシンで治療すると予後が悪いという話がありましたので、感受性がわかるまではβラクタムとバンコマイシンを併用した方がよいのではないか?という話がありました。この件についてはデータ不足ということもあり、保留の立場のようです。      
      

4. ペニシリン感受性のStaphylococcusによる心内膜炎は水性ペニシリンGではなく、抗ブドウ球菌用のβラクタムで治療するべきである。理由は一般的な検査室ではペニシリンの感受性を検出できないからである。(Class I; Level of Evidence B).      
 これも時々話題になりますね。S. aureusが本当にペニシリナーゼを産生しないかどうかを検査するのは難しいので、ペニシリンGに感受性とでても使うのはやめておけ、という立場ですね。表現形とペニシリナーゼ遺伝子の関連についてはこちらの論文が参考になります。 
   
5. MSSAによる合併症のない左心系の自然弁心内膜炎にはナフシリンか同等の抗ブドウ球菌ペニシリンの6週間投与を推奨。合併症がある場合には最短6週間の治療を推奨。(Class I; Level of Evidence C).      
       
6. MRSAによる左心系の心内膜炎に対してダプトマイシンは代替薬として妥当である。(Class IIb; Level of Evidence B).       

ダプトマイシンはまだ代替薬の扱いですね。MRSAのガイドラインでは同じくらいの推奨度でしたが、こちらではバンコマイシンの方がより強く推奨されています。     
   
7. ダプトマイシンの投与量は感染症専門医にコンサルテーションして選択するべきである。(Class I; Level of Evidence C).
もともとは6mg/kgでしたが、最近は8-10mg/kgがよいのでは、という話があります。というか出てきてからわりとすぐに多いほうがいいんじゃね、という話になったような気がします。

 

○βラクタムにアレルギーがあるか、使えない場合のMSSAによる心内膜炎の治療      
1. ペニシリンに対してアナフィラキシー以外の反応の既往が確実な場合はセファゾリンが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).      
       
2. MSSAによる心内膜炎の治療にバンコマイシンの使用を考慮しなければならない場合は必ずβラクタムが使用できないかアレルギーの評価をするべきである。 (Class I; Level of Evidence B).       
       
3. 心内膜炎の再発率が高いのでクリンダマイシンの使用は推奨しない。(Class III; Level of Evidence B).
   
ふだんはあまり意識しない殺菌性か静菌性かという話がここでは重要です。引用されている文献によるとかなり昔から知られていたことのようであります。      
      

4. MSSAによる左心系の心内膜炎に対してバンコマイシンのかわりにダプトマイシンを使うのも妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).

 

○追加、併用治療      
1. Stpahylococcusによる自然弁の心内膜炎の治療にルーチンでリファンピシンを追加するのは推奨しない。(Class III; Level of Evidence B).      
どうしても血培が消えない時なんかに追加されることはあるだろうけど、結局薬の問題じゃないことの方が多いですよね。     
      
2. バンコマイシン耐性のStaphylococcusによる心内膜炎の治療は感染症専門医にコンサルトするべきである。(Class I; Level of Evidence C).      
コンサルトされても正直困るなぁ…

 

image

 

 

 

◆人工物がある状況での感染性心内膜炎    
○コアグラーゼ陰性ブドウ球菌      

1. バンコマイシンとリファンピシンを最低6週間、初期2週間のみゲンタマイシンを追加して投与する。(Class I; Level of Evidence B).      
菌量が多いとリファンピシンは耐性をとられやすいので十分にバンコマイシンが効いてくるまで数日併用を待てという意見もあるよ、と紹介されています。理由はどうであれなんでもかんでも同時に突っ込むと副作用が出た時に混乱するので、待てるものなら少し待つというのは悪くないように思われます。      
      

2. コアグラーゼ陰性ブドウ球菌がゲンタマイシンに耐性の場合は、感受性のある別のアミノグリコシドを使用してもよいかもしれない。(Class IIb; Level of Evidence C).      
 別のアミノグリコシド…アルベカシンも含むのかしら?私にもわかりません。 
 
3. コアグラーゼ陰性ブドウ球菌がすべてのアミノグリコシドに耐性の場合は、感受性のあるキノロンを使用してもよいかもしれない。(Class IIb; Level of Evidence C)      
       
4. 細菌学的に再燃がみられた場合は、手術検体か血液の培養で検出された細菌の感受性をすべて慎重にやりなおすべきである。(Class I; Level of Evidence C)

 

○S. aureus      
1. 組合せの抗菌薬治療を推奨。(Class I; Level of Evidence C).      
2. βラクタムのレジメンでもでもバンコマイシンのレジメンでもゲンタマイシンを最初の2週間追加する。(Class I; Level of Evidence C).       

自然弁では用済みになってしまったアミノグリコシドもまだ人工弁では現役です。

 

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次回は腸球菌編です。

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