AHA IE guideline 2015 update その4 その他の微生物編
AHAの心内膜炎ガイドラインの抄訳。第4弾はその他の微生物です。青字は管理人のコメントです。
◇HACEK群
発育の難しいグラム陰性桿菌の頭文字をとったHACEKです。( Haemophilus species, Aggregatibacter species, Cardiobacterium hominis, Eikenella corrodens, and Kingella species)
1. 感受性検査を行うのに十分な菌量が得られた場合以外は、HACEK群の微生物はアンピシリン耐性とみなすべきである。ペニシリンとアンピシリンはHACEK群によるIEの治療に用いてはならない。(Class III; Level of Evidence C).
2. HACEK群のIEの治療にはセフトリアキソンを用いるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).
3. 自然弁のHACEKによる心内膜炎の治療期間は4週間が妥当、人工弁の場合は6週間が妥当。(Class IIa; Level of Evidence C).
4. ゲンタマイシンは腎毒性のため推奨しない。(Class III; Level of Evidence C).
5. セフトリアキソン(または他の3-4世代のセファロスポリン系)が使えない場合は、キノロン系(シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン)を代替薬として検討してもよい。(Class IIb; Level of Evidence C).
6. アンピシリンスルバクタムも治療オプションとして考慮される。(Class IIb; Level of Evidence C).
7. HACEK群によるIEの患者でセフトリアキソンが使えない場合は感染症専門医にコンサルトすること。 (Class I; Level of Evidence C).
◇HACEK以外のグラム陰性桿菌
1. HACEK以外のグラム陰性好気性菌(特に緑膿菌)による心内膜炎に対しては抗菌薬の長期投与と手術を行うのが妥当である。(Class IIb; Level of Evidence B).
2. βラクタム(ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム)とアミノグリコシドかキノロン系を組み合わせて6週間治療するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
この場合のアミノグリコシドの投与法はどうすべきか?記載はなし。ケースバイケースでしょう。
3. HACEK以外のグラム陰性好気性菌には様々な耐性メカニズムがあるので感染症専門医にコンサルトすべきである。(Class I;Level of Evidence C).
ESBL、AmpCなど考えるべき耐性がいろいろあります。
◇培養陰性の心内膜炎
1. 培養陰性心内膜炎では疫学、心血管感染症の既往、抗菌薬投与歴、臨床経過、重症度、心臓以外の感染症の症状などの病歴を評価する。(Class I; Level of Evidence C).
2. 培養陰性心内膜炎では最も適切な抗菌薬を選択するため感染症専門医へのコンサルトを推奨する。(Class I; Level of Evidence C).
3. 自然弁で急性の経過(日の単位)の場合はS. aureus、β溶連菌、好気性グラム陰性桿菌をカバーするのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
4. 自然弁で亜急性の経過(週の単位)の場合はS. aureus、Viridans group streptococcus、HACEK、腸球菌をカバーするのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
5. 人工弁入れ替えから1年の以内の人工弁心内膜炎の場合は、ブドウ球菌、腸球菌、好気性グラム陰性桿菌をカバ-するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
6. 人工弁入れ替えから1年以上経過した人工弁心内膜炎の場合は、ブドウ球菌、Viridans group streptococcus、腸球菌が原因になることが多くなるので、これらをカバーした治療が妥当である。(Class IIa;
Level of Evidence C).
7. 血液培養か、他の検査法で微生物が明らかとなった場合は、微生物に特異的な治療に変更する。(Class I; Level of Evidence C).
具体的なレジメンの推奨はこちらにはありません。2005年版ではいくつかのレジメンの例が本文中に記載がありましたが。
ちょっと脱線しますが、経験的な治療を考えるときにはヨーロッパのガイドラインを参照していました。今回ヨーロッパのガイドラインも2015年中にかわっていて見なおしてみましたが、前回の版とは経験的な治療の記載がかわっています。前回は自然弁ではABPC/SBT+GMなどが書いてありましたが、ESCの2015ではABPC+Cloxacillin+GMになっています。これはMSSAに対してはβラクタムがみんな同等というわけではない、という報告をベースにしているようです。この辺は議論がわかれるところです。
◇真菌
カンジダは血培から生えますが、Aspergillusはほとんど生えません。
1. 真菌による心内膜炎では手術を行うべきである。(Class I; Level of Evidence B).
真菌の心内膜炎はそれだけで手術適応( “stand-alone indication”)という記載です。そういう英語表現があるというのが勉強になります。
2. 初期の静注による治療を完了した後、生涯にわたりアゾール系内服薬でサプレッションをかけるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).
アゾール耐性のカンジダだったらどうすんだよ…というところには答は書いていません。たぶん新しくなったカンジダのガイドラインを見ても多分みつからないでしょう。
次回は外科治療について。
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