AHA IE guideline 2015 update その1 総論 Streptococcus
10年ぶりにAmerican Heart Association(AHA)の心内膜炎治療ガイドラインがUpdateされました。
ヨーロッパのESC ガイドラインも今年Updateされたので、2015年で米欧のガイドラインがUpdateされたことになります。
自分の勉強のためにRecommendationのところだけ訳していくことにしました。
最初に総論と診断についての記載があって、その後Streptococcus, Staphylococcus, Enterococcusとグラム陽性球菌によるIEの治療、
その後HACEK, Non-HACEK GNR, Fungi, Culture negativeと続き、最後に合併症についての治療の記載が載っている構造は2005年の
ガイドラインとかわらないようです。
個人の勉強用のブログです。誤訳の可能性もありますので、疑問な点は原著にあたってください。ところどころ管理人のコメントが青字で入ります。投与量が表にまとまっているところは表をそのまま貼っておきます。
◇診断について
1. 最低3セットの血液培養を異なる穿刺部位から採取すべきである。最初の検体と最後の検体は最短1時間開ける。
(Class I; Level of Evidence A).
2. 心エコーはIEが疑われる患者では迅速に行うべきである。
(Class I;Level of Evidence A).
診断の基本はもちろんDukeのクライテリアです。ここでは省略。
1.IEを疑ったらまずはTTE(経胸壁心エコー)を行う。(Class I; Level of Evidence B).
◇繰り返す心エコー
1. 以下の場合はTEE(経食道心エコー)を行う。最初のTTEで陰性か、不十分な結果だったが、IEの疑いが続いている。または最初のTTEで陽性だったがしんない合併症が疑われる場合。(Class I; Level of Evidence B).
2. 最初のTEEで陰性であったにもかかわらず、IEの強い疑いがある場合は3-5日後に再検するか、臨床的な変化があった場合にすぐに行うよう推奨する。(ClassI; Level of Evidence B).
3. 最初のTEEが陽性で、心内合併症が疑われる場合はTEEを再検するべきである。(Class I; Level of Evidence B).
◇治療終了時の心エコー
1. 抗菌薬治療が終了した時点でTTEを行うのはベースラインとなる状態を把握しておく意味で理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence C).
◇抗菌薬治療 治療の原則
1. 抗菌薬開始時点で最適な経験的治療レジメンを決めるため感染症専門医にコンサルトするのが望ましい。(ClassI; Level of Evidence B).
2. 治療期間は陰性化した血液培養が採取された日からカウントするのが理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence C).
3. 血液培養陰性が確認されるまで24時間から48時間毎に最低2セットの血液培養を採取するのが理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence C).
4. 手術で得られた検体が培養陽性だった場合は弁膜の手術をした日を基点として治療期間を完遂するのが理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence B).
5. 手術で得られた検体が培養陰性だった場合は手術前の投与日数をあわせて全体の投与日数とするのが理にかなっているだろう。(Class IIb; Level of Evidence C).
ここはややこしいところなので、原著にあたっていただきたい。2005年のCID、2011年のCMIに術後2週間の投与で充分か?ということを検討したスタディがでています。といっても日本では4-6週間の抗菌薬投与が終わるところで手術が行われることが多いのではないでしょうか。
実際にはケースバイケースで治療期間を設定していくことが多いと思います。
6. 2剤以上を含むレジメンでは抗菌薬の投与は同時か、ごく近い時間に投与するのが理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence C).
これはシナジー効果を最大限に得るため、と本文に記載がありました。アミノグリコシドとβラクタムはどっちを先にすべきか、みたいな議論が日本ではよくされますね。どうでもいいとは思いませんが、全体からすると瑣末なことのように思えます(個人の感想です)。
◇Viridans group streptococcus(VGS), Streptococcus gallolyticus (以前のStreptococcus bovis), Abiotrophia defectiva, Granulicatella Species
◆自然弁
◯高度感受性のVGSとS. gallolyticus (MIC ≤0.12 µg/mL)
1. 水性のペニシリンGとセフトリアキソンはともに4週間の治療のオプションである。(Class IIa; Level of Evidence B).
2. 合併症のないIEで治療に対する反応がよく、腎機能障害がない人であれば、ゲンタマイシンを含む2週間の治療レジメンも理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence B).
以前から記載されている2週間レジメン。やったことないし、やってる人を見たこともない。
3. ペニシリンもセフトリアキソンも使えない場合は、バンコマイシンによる4週間の治療も理にかなった代替治療である。
4. 望ましいバンコマイシンのトラフは10-15μg/mLである。(Class I; Level of Evidence C).
VGSによるIEに対するバンコマイシンのトラフの目安が示されました。これは2005年にはなかったはず。MRSAでは15-20μg/mLがスタンダードになっていますが、なんでもかんでもこのトラフにしておけばいいというわけではない。しかし本文を見ても根拠は示されていません…Expert opinionでしょう。
◯相対的に耐性のVGSとS. gallolyticus (MIC 0.12 ~0.5µg/mL)
1. 初期の2週間ゲンタマイシン1日1回投与を併用したペニシリンの4週間投与するのが理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence B).
2. セフトリアキソンに感受性がある場合はセフトリアキソン単剤も考慮。(Class IIb; Level of Evidence C).
3. βラクタムが使えない場合にはバンコマイシン単剤も理にかなっている。(Class IIb; Level of Evidence C).
◯A. defectivaとGranulicatella属、ペニシリンに対するMIC>0.5のVGS
かつてはNutritionally variant streptococci(NVS)として(ごく一部では)お馴染みのAbiotrophia、Granulicatellaですね。Gemella(ガメラじゃない)もここに含まれます。普通のVGSに比べると治療失敗が多いので有名。腸球菌を治療する感じで治療します。
1. A. defectiva, Granulicatella属、ペニシリンのMIC≧0.5µg/mL のVGSによるIEを治療する場合は感染症専門医にコンサルトしつつ、アンピシリンかペニシリンをゲンタマイシンと組み合わせて治療するのが理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence C).
2. アンピシリンもペニシリンも使えなくてバンコマイシンを用いる場合はゲンタマイシンの追加は不要である。(Class III; Level of Evidence C).
3. ペニシリンのMIC≧0.5µg/mLでセフトリアキソンに感受性にあるVGSの場合は、セフトリアキソンとゲンタマイシンの併用も理にかなっている。(Class IIb; Level of Evidence C).
◆人工弁
1. 水性ペニシリンGかセフトリアキソンの6週間投与が理にかなっている。初期の2週間にはゲンタマイシンを加えても加えなくてもよい。(Class IIa; Level of Evidence B).
2. 原因微生物のペニシリンGのMIC>0.12µg/mLの場合はゲンタマイシンの投与期間を6週間に延長する。(Class IIa; Level of Evidence C).
3. ペニシリン、セフトリアキソン、ゲンタマイシンがいずれも使えない場合はバンコマイシンが使用可能である。(Class IIa; Level of Evidence B).
◇Streptococcus pneumoniae, Streptococcus pyogenes, Groups B, C, F, G β-Hemolytic Streptococci
1. S. pneumoniaeによるIEではペニシリン、セファゾリン、セフトリアキソンの4週間投与が理にかなっている。βラクタムが使えない場合はバンコマイシンが代替薬である。(Class IIa;Level of Evidence C).
恥ずかしながらここにセファゾリンが入っていることに初めて気が付きました。レンサ球菌のIEの治療には使ったことないなぁ。
2. S. pneumoniaeによる人工弁の心内膜炎では治療期間を6週間まで延長するのが理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence C).
3. 髄膜炎を伴わないPRSPによるIEの場合は高容量ペニシリンか、第3世代セファロスポリンが理にかなっている。髄膜炎を伴う場合はセフォタキシム(またはセフトリアキソン)が理にかなっている。(Class IIa; Level of Evidence C).
4. セフトリアキソン耐性(MIC>2 µg/mL)のS. pneumoniaeによるIEの場合はセフォタキシム(またはセフトリアキソン)にバンコマイシンとリファンピシンを追加するのが理にかなっている。(Class IIb; Level of Evidence C).5. S. pneumoniaeによるIEは複雑なので、感染症専門医にコンサルトするのが望ましい。(Class I; Level of Evidence C).
6. S. pyogenesによるIEでは水溶性ペニシリンGかかセフトリアキソンの4-6週間の投与が理にかなっている。バンコマイシンはβラクタムが使えない時のみ、代替薬として用いる。(Class IIa;Level of Evidence C).
7. B群、C群、G群レンサ球菌によるIEの場合はペニシリンGかセフトリアキソンを4-6週間と初期の2週間にゲンタマイシンを追加したレジメンでの治療を考慮する。(Class IIb; Level of Evidence C).
8. β溶連菌によるIEでは感染症専門医へのコンサルテーションを推奨。(Class I; Level of Evidence C).
今回はここまで。
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