椎体炎のIDSAガイドライン
久々に更新です。ブログの存在を忘れたわけではありません。
IDSAから椎体炎(Native vertebral osteomyelitis:NVO)のガイドラインがでました。
自分の診療を見直すためにサマリ部分を訳しました。GRADE方式にそったガイドラインなので推奨度の記載がAⅠとかBⅡではなく、推奨度(強い、弱い)とそれぞれの推奨に対するエビデンスの質が記載されています。2013年の人工関節感染のGLはまだ前の方式だったのにかわりましたね。残念ながらほとんどがエビデンスの質が低い。この領域はRCTなどは難しい分野なので仕方ないところではあります。
このブログは個人的なメモなので、訳に間違いがある可能性大なので詳細は原典をご確認ください。
ところどころ管理人のコメントが青字で入ります。
I. When Should the Diagnosis of NVO Be Considered?
いつNVOを疑うべきだろうか?
1. 新たに発症、あるいは悪化した背部痛、頚部痛と発熱を認める時はNVOを疑う。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
2. 新たに発症、あるいは悪化した背部痛、頚部痛に加えてCRPと血沈の上昇を認める時はNVOを疑う。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
3. 血流感染か心内膜炎の患者に新たに発症、あるいは悪化した背部痛、頚部痛を認める時はNVOを疑う。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
4. 発熱と新たな神経学的兆候と腰痛のある患者では(なくても)NVOを考慮する。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
5. 最近のS. aureusの血流感染に引き続いて、頸部か背部に局在する痛みを訴える患者ではNVOを考慮する。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
これは血液培養ラウンドをするときにいつも気をつけています。「ずっと寝てるから腰が痛いんです」と本人が言っても要注意ですよ。
II. What Is the Appropriate Diagnostic Evaluation of Patients With Suspected NVO?
NVOの診断のための適切な評価は?
6. NVOを疑うときは内科的診察と運動/感覚神経の診察を推奨する
(強い推奨 エビデンスの質:低)
7. 血液培養2セットとベースラインでの血沈、CRPを全患者で採取するよう推奨する。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
骨の感染症では他の領域と違い炎症マーカーの出番が多い
8. NVOを疑う場合は脊椎のMRIを推奨。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
9. MRIが撮れない時(心臓デバイス、蝸牛のインプラント、閉所恐怖症)脊椎のガリウム/テクネシウム99の骨スキャンまたはCTまたはPETを推奨
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
ガリウムシンチは見逃したフォーカスの発見に役立つ時もあります。
10. 亜急性の経過のNVOでは、血液培養とブルセラの血清検査を推奨(流行地域では)
(強い推奨 エビデンスの質:低)
11. 真菌感染症のリスクがある場合は真菌の血液培養も推奨。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
12. 亜急性の経過のNVOではツ反かIGRAを推奨(患者にリスクがある場合)
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
日本では、特に高齢者ではやっても混乱するだけなのでやんない方がいいんじゃないでしょうか。
13. NVOを疑う場合は感染症専門医と脊椎外科医による評価を検討する。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
そこは強い推奨でもいいんじゃないか…感染症の学会なんだから…
III. When Should an Image-Guided Aspiration Biopsy or Additional Workup Be Performed in Patients With NVO?
生検などの追加のワークアップをいつ行うべきか?
14. 血液培養でよく知られた微生物(S. aureus, S. lugdunensis, Brucella)が判明しなかった場合は、イメージガイド下での吸引生検を推奨。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
S. lugdunensisをちゃんとわけて書いているのは珍しいですね。施設によっては血培から生えても「コアグラーゼ陰性ブドウ球菌」しか返ってこないこともあるから気をつけないと…
15. S. aureus, S. lugdunensis, Brucellaによる菌血症が判明していて、NVOが疑われる患者でのイメージガイド下生検はしないよう推奨。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
16. 亜急性の経過のNVOでブルセラの抗体価が強陽性の場合はイメージガイド下の生検をしないよう推奨。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
IV. How Long Should Antimicrobial Therapy Be Withheld Prior to an Image-Guided Diagnostic Aspiration Biopsy in Patients With Suspected NVO?
NVOを疑う患者でイメージガイド下の生検を行う前にどれくらい抗菌薬の投与を控えればよいか?
17. 神経学的の兆候、敗血症、血行動態が不安定な場合は、早急に外科的介入を行い、経験的な抗菌薬の投与を開始する。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
CQに対する答えになってませんが…本文を読むと1-2週間でよいのでは?と控えめな書き方が。正直誰にも答えはない。
V. When Is It Appropriate to Send Fungal, Mycobacterial, or Brucellar Cultures or Other Specialized Testing Following an Image-Guided Aspiration Biopsy in Patients With Suspected NVO?
生検検体で真菌、抗酸菌、ブルセラ、その他特殊な検査を考慮すべきはどのような時か?
18. 疫学的な患者のリスクがある場合、特徴的な画像所見がある場合は真菌、抗酸菌、ブルセラの検査を追加するよう推奨する。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
19. 培養が陰性の場合は保存検体で核酸増幅検査を行うよう推奨。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
VI. When Is It Appropriate to Send the Specimens for Pathologic Examination Following an Image Guided Aspiration Biopsy in Patients With Suspected NVO?
生検で得られた検体を病理診断に送るのはどのようなときか?
20. 十分な検体が得られたら、全例病理検査を行ったほうがよい。特に培養が陰性の場合は重要。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
VII. What Is the Preferred Next Step in Patients With Nondiagnostic Image-Guided Aspiration Biopsy and Suspected NVO?
イメージガイド下の生検で診断がつかなかった場合の次のステップは?
21. 最初の生検で皮膚の常在菌(S. lugdunensis以外のCNS、Propionibacterium, その他グラム陽性桿菌)が検出され、血流感染症の合併がない場合は2回目の生検を推奨する。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
22. 最初の生検で診断がつかなかった場合、発育の難しい微生物(嫌気性菌、真菌、Brucella、抗酸菌)の追加検査を推奨。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
23. イメージガイド下での生検とその他の検査で診断がつかなかった場合、生検をもう一度行うか、経皮的な内視鏡下での椎間板切除とドレナージか、開放生検を推奨。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
VIII. When Should Empiric Antimicrobial Therapy Be Started in Patients With NVO?
NVOが疑われる患者でいつ経験的抗菌薬治療を開始すべきか?
24. 神経学的な異常がなく、血行動態も安定している場合は微生物学的な診断がつくまでは経験的抗菌薬治療を控えるよう推奨。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
25. 血行動態が不安定、敗血症、敗血症性ショック、重篤か進行性な神経学的兆候がある場合は経験的抗菌薬治療の開始を推奨。並行して微生物学的診断も進める。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
IX. What Is the Optimal Duration of Antimicrobial Therapy in Patients With NVO?
適切な抗菌薬の投与期間は?
26. 合計6週間の治療を推奨。静注抗菌薬か、吸収のよい内服抗菌薬を用いる。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
薬の名前は?→表で微生物ごとにまとめてありました。
吸収のよい内服薬って?→表になってました。メトロニダゾール、モキシフロキサシン、リネゾリド、レボフロキサシン、シプロフロキサシン、ST合剤、クリンダマイシン、ドキシサイクリンです。個人的にはMINOも入ってていい気がしますが。
27. Brucellaに対しては3ヶ月の抗菌薬を推奨
(強い推奨 エビデンスの質:中)
X. What Are the Indications for a Surgical Intervention in Patients With NVO?
外科的治療が必要なのはどのような患者か?
28. 適切な抗菌薬治療にも関わらず以下の場合(痛みの有無に関わらず)外科的治療を推奨
・進行する神経学的な脱落兆候がある
・変形が進行している
・脊椎の変形が進行する
・脊椎が不安定になっている
(強い推奨 エビデンスの質:低)
29. 他にフォーカスがないのに血液培養陽性が持続する場合、適切な抗菌薬治療にも関わらず痛みが悪化する場合は外科的ドレナージ(固定も含む)を推奨。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
30. 症状、身体所見、炎症反応が改善している状況で、4-6週間後に画像的に悪化していても、手術は推奨しない。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
画像はすぐにはよくなりません。画像がよくなんないから抗生剤を変えろとかいうのやめてください。
XI. How Should Failure of Therapy Be De fi ned in Treated Patients With NVO?
治療失敗はどのように定義するか?
31. 持続する痛み、残存する神経学的な脱落所見、全身の炎症マーカーの上昇だけでは治療失敗とはみなさない。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
XII. What Is the Role of Systemic In fl ammatory Markers and MRI in the Follow-up of Treated Patients With NVO?
NVO治療後のフォローアップに炎症マーカーはどのような役割があるか?
32. 4週間の治療後に臨床所見とあわせて、炎症マーカー(血沈、CRP)をモニタリングするよう推奨。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
33. 抗菌薬治療に反応して臨床的兆候、検査結果が改善している患者でルーチンにMRIのフォローアップをする必要はない。
(強い推奨 エビデンスの質:低)
つい撮りたくなっちゃうんですけどね…治ったのを確認したい人情でしょうか。
34. 臨床的に治療に反応が悪いと判断した場合は、硬膜下、傍脊柱の軟部組織の変化をみるためにフォローアップのMRIを推奨
(強い推奨 エビデンスの質:低)
XIII. How Do You Approach a Patient With NVO and Suspected Treatment Failure?
治療失敗が疑われる場合にどうアプローチするか?
35. 治療失敗が疑われた場合、炎症反応のマーカーの測定を推奨。
4週間の治療後にも不変、あるいは増加していた場合は治療失敗の可能性が高まる。
(弱い推奨 エビデンスの質:低)
36. 治療失敗が疑わる場合は硬膜下、傍脊柱の軟部組織の変化をみるためにフォローアップのMRIを推奨
(強い推奨 エビデンスの質:低)
37. 臨床的、画像的に治療失敗が明らかな場合は、イメージガイド下か外科的に再度微生物学的、病理学的な検体を採取するよう推奨。
(弱い推奨 エビデンスの質:非常に低い)
38. 臨床的、画像的に治療失敗が明らかな場合は脊椎外科医と感染症専門医にコンサルテーションを検討。
(弱い推奨 エビデンスの質:非常に低い)
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