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2014年2月

2014年2月12日 (水)

Clinical practice: Community acquired pneumonia 市中肺炎

NEJMのClinical practiceに市中肺炎の総説がでていましたので読んでみました。記憶にあるかぎりでは2002年にもでていて、一生懸命読んだ記憶があります。

読んで受けた印象は、個々の患者さんの微生物学的な診断よりも、リスクファクターで患者さんを層別化して、集団としてのアウトカムを改善することに重きが置かれるようになってきているということです。不要な抗菌薬投与を防ぎ、医療資源を効率よく投入するために、どうやって患者さんを層別化していくか、ということが最近の研究ではもっぱら焦点があたっているように感じます。
とはいえ診療のアウトカムを変えない場合は喀痰培養や血液培養を行わない、というのはちょっと違和感があります。肺炎をきちんと診断するのは難しい。高齢者では誤嚥性肺炎という診断をつけたのに翌日血液培養からグラム陰性桿菌がでて尿路感染に診断を翻すなんてこともよくあります。
培養結果は治療の選択のために用いるのは当然ですが、それだけではなく予後の推定にも影響しますし、初期治療への反応が思わしくない場合に次のアプローチをどうするかを考えるのにも役立ちます。(たとえそれが陰性の結果であっても)
ですから個人的には一例一例の微生物の診断をつめていく姿勢は失わないようにしたいと思っていますし、自分より若い世代に肺炎の診療を伝える場合にも微生物学的診断に目を向けてもらいと思います。
それにしてもグラム染色がまったく触れられていないのも残念なことです。

というわけで以下が抄訳です。ところどころ色ちがいの字で個人的な感想が入っています。誤訳等々あるかもしれませんので、詳細は原著にあたってください。

Wunderink RG, Waterer GW.
Community-Acquired Pneumonia.
New England Journal of Medicine. 2014;370(6):543–51.

◆Clinical vignette
67歳女性、 軽度のアルツハイマー型認知症
2日の経過で膿性痰を伴う咳、発熱、意識障害でナーシングホームから救急外来に搬送されてきた。記録によると最近の入院歴はなく、抗菌薬投与の既往もない。
体温は38.4℃、血圧145/85、呼吸数30回/分、心拍数120/分、酸素飽和度91%(RA)
両側下肺野にクラックルを聴取。人はわかるが場所と時間はわからない。
WBC4000 Na130 BUN25 レントゲンでは両下肺野に浸潤影を認める。さてどのように治療するべきか?

◆Clinical problem
・しばしば肺炎は”Forgotten killer”と称される。
・WHOの推計では下気道感染症は感染症による死亡原因の中で最も多いとされる(全体の中で3番目)
・米国ではFluと肺炎で死亡原因の9番目の原因となっている(2010年)が、過小評価だろう。敗血症とカウントされる中にも肺炎が最多だろうし、アルツハイマーも悪性腫瘍も終末期のイベントとして肺炎で亡くなることも多い。
・入院するほどのCAPになると、その後数年間にわたり死亡率が上昇する。元も健常な若年成人でもそうらしい。

◆Strategies and evidence
診断
・心臓、肺に基礎疾患がなければ肺炎の診断は容易のはず
・炎症(発熱・悪寒・WBC↑)+呼吸器症状(咳、痰、呼吸苦、胸痛、肺の雑音)+画像での浸潤影
・肺がん、間質性肺炎、CHFなどがあると診断は一気に難しくなる。
・高齢者では意識障害だけのこともあって診断が遅れる。
・画像所見がはっきりしないこともあって、単純レントゲンでは放射線科医の15%が見逃すことがあり、2人の放射線科医が10%で一致しないという。
・肺炎と鑑別を要する疾患

Image(73)

◆Inital management
抗菌薬の選択
・最初に3つのことを同時に決める必要がある
”抗菌薬” “どこまで原因を詰める検査をするか” “どこで治療するか”
・抗菌薬選択で大事なのは肺炎球菌と非定型肺炎の病原体(マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラ)をきちんとカバーしていること
・外来患者では非定型肺炎の病原体のカバーが最も重要。特に若い成人ではそうである。
・若年成人では肺炎球菌ワクチンのおかげで集団免疫ができて肺炎球菌肺炎の頻度が下がっている。(と、日本で言えるようになるにはもう少し時間がかかるでしょう)
・最近の抗菌薬使用で耐性のリスクが上がるので、内服を選ぶときは使用歴に注意が必要である。
・マクロライド、ドキシサイクリン、キノロンが非定型肺炎に対しては最も適切である。(ていうか他に選択肢はほとんどないと思いますが…)
・一般病床に入院したのであれば推奨はレスピラトリーキノロン(モキシフロキサシン400mg/日またはレボフロキサシン750mg/日)または第2-3世代Ceph+マクロライド
日本はまだ結核のリスクが高いので、キノロンの初期投与は慎重になるべきでしょう。キノロン投与で結核の診断が遅れる、という報告もあります。
・この推奨は大きなデータベースから初期治療とアウトカムの関連を調べた研究からきている
・S. pneumoniaeがICU入室が必要な重症市中肺炎で最多の病原微生物だが、セファロスポリン+キノロンまたはマクロライドがが推奨される。
・マクロライドの方がアウトカムはよいらしい。おそらく免疫の作用によるのだろう。

抗菌薬開始のタイミング
・CMS-TJC (Centers for Medicare and Medicaid  Services  (CMS)  the  Joint Commission  (TJC)では6時間以内の抗菌薬投与が推奨されているが、これは4時間以上経ってから抗菌薬が投与された郡では予後がよくなかったというメディケアのデータベースからの結果による。
・とはいえ無駄な抗菌薬投与が増えてしまっている面もある。
・IDSAでは時間については指定せず、診断がついたらすぐに、と推奨。
・ただしショックの患者の場合は低血圧から1時間以内に投与せよと推奨。

投与期間
・現行のガイドラインでは5-7日。
・免疫抑制患者でなければ投与期間を延長してもアウトカムは改善しない。

耐性菌のリスクのある患者の治療
・いわゆるHealth care associated pneumoniaにあてはまる患者は耐性菌感染のリスクがある

Image(74)

ここでPneumonia-specific criteriaとして挙げられているのは名古屋大学の進藤先生の論文からとられています。日本発のエビデンスですね。素晴らしい。
Shindo Y, Ito R, Kobayashi D, Ando M, Ichikawa M, Shiraki A, et al. Risk factors for drug-resistant pathogens in community-acquired and healthcare-associated pneumonia. Am J Respir Crit Care Med. 2013 Oct;188(8):985–95.

耐性菌がでる6つのリスク因子:
90日以内の2日以上の入院
90日以内の抗菌薬投与
自立歩行ができない状態の人
経管栄養
免疫抑制
制酸剤の投与
・こういう人たちには緑膿菌とMRSAをルーチンでカバーせよとATSは推奨しているが、これでは多くの患者で治療しすぎになる。
・はたして本当に広域抗菌薬が必要なのはどんな人達なのだろうか(これはAreas of uncertainty)
・肺の構造的な問題があって、抗菌薬をしょっちゅう投与される人も緑膿菌による感染症のリスクが高まる
・(米国では)健康成人における市中のMRSA肺炎が増えている。
・市中感染型MRSAによる肺炎を示唆する所見。

Image(75)
日本ではCA-MRSAによる肺炎はそう多くはないと考えられています。このへんは国によって疫学が違うのであまり心配しすぎる必要はありませんが、頭の片隅に入れておくとよいように思います。

◆Diagnostic testing
・どこまで検査をするべきかはControversial。
・推奨される治療レジメンはほとんどの患者に効果があるので、培養結果で治療が変わることはまれである。
・検査の考え方一覧
Image(76)

・HCAPと市中でも重症な人は通常の治療に耐性の微生物のリスクが高いので有用だろう。
・インフルエンザの検査は流行期なら治療も変えうるので有用だろう。
・流行状況によってはEmpiricに治療するし、検査陽性なら治療するってのもあり

◆Site of care 治療の場
入院
・CAPでERを受診した患者の40-60%が入院している。(米国の話、多分)
・似たような状況での判断にばらつきがあるので、標準化の余地があるだろう。
・PSIやCURB-65は入院の判断をより客観的に行うために作られた。
・PSIを用いると特に問題なく軽症者の入院は減らせたという研究がある。
・CURB-65は計算が楽だが、PSIのように効果を実証した研究はない。
・実際の入院の判断には家庭の看護力や治療へのアドヒアランスなどの要素も加味して考慮されているものである。
だいぶ前になりますが、臨床感染症でご高名な先生が「入院させた方がいいかどうかなんて患者さんを一目見りゃわかるだろうが」とおっしゃっているのを聞いたことがあります。共通言語や標準化という意味ではもちろんスコアリングは大事ですが、「あ、こりゃ帰せないな」という感覚も大事だと思います。
ICUへの入室
・入院の時点で明らかな適応(人工呼吸、低血圧)があってICUに入る人よりも、最初は一般病棟に入院して、48時間以内にICUに入った人の方が死亡率が高い。
・とはいえ明らかな適応がない人をICUに入れることにメリットがあるかを検証した前向きの研究はない。
・ICU入室適応は病院や医療制度の違いにも影響される。
・ATS/IDSAのGLではマイナークライテリアを5/9満たす場合のICU入室を推奨。
・他にも悪化を予測するスコアリングはいくつかある。
・これに厳密に従うと適応のないICU入室患者が増えてしまうだろうから、これを上手に使うには救急外来でこれらの所見に注目することなのかもしれない。

Image(77)

◆Areas of uncertainty
・HCAPの推奨に従うと抗菌薬がOveruseになる可能性が憂慮されている。
・広域抗菌薬投与を受けた患者の方がよくない結果になるリスクが高いという懸念がある。(Selection biasも否定出来ないが)
・HCAPに当てはまる患者の前向き研究では抗菌薬耐性の細菌がでてくる患者はずっと少なく、培養陰性のケースもたくさんあった。
・HCAPのリスク因子を抗菌薬のチョイスに応用すると、半分のCAPの患者が広域抗菌薬の適応になってしまうという報告もある。
・広域抗菌薬投与の対象とすべき患者を選び出す基準はどれなのかは明らかではない。
・これまでのデータではリスク因子が3つ以上なければ多剤耐性菌のリスクは低いが、MRSAだけは例外である。
・CAPとHCAPをわける重要性は耐性菌が地域にどれだけ広がっているかにもよる。
・培養で微生物が捕まらなかった例にどう治療するかのRCTはない。
・培養陽性例ではHCAPの初期治療が外れていた場合に死亡率が上昇するが、培養が陰性であった場合には古典的なCAPの治療に切り替えても安全であるという報告もある。 Labelle AJ, Arnold H, Reichley RM, Micek ST, Kollef MH. A comparison of culture-positive and culture-negative health-care-associated pneumonia. Chest. 2010 May;137(5):1130–7.

◆Guidelines
・IDSA-ATSのGLは7年前のものになってしまったが、市中肺炎の治療レジメンはほとんどこの論文でも変わっていない。
・HCAPとVAPに対するガイドラインはちょっと時代遅れになってしまっている。
・今後でるHAPとVAPのガイドラインからはHCAPに関する議論は除外されるようだ。
・IDSA/ATSのガイドラインとそれ以外の組織からのガイドラインに大差はないが、ヨーロパのガイドラインではβラクタム単剤のオプションが残してあり、ICUに入らない入院患者ではキノロンの使用に重きをおいていない。

◆Conclusions and Recommendations
・冒頭の症例はCURB-65で4あり、入院のメリットがありそう。また重症市中肺炎のminor criteriaを最低4つ満たしている。ICU入室が慎重かもしれないが、ABG測定、乳酸値も測定し急速な補液もしたほうがよい。
・ナーシングホーム入居中なので、HCAPの基準を満たすが、pneumonia-specificの多剤耐性菌のリスクはないので、セフトリアキソンとアジスロマイシンで治療を開始。
・流行期ならインフルエンザも検査して、疑わしければエンピリックにインフルエンザも治療する。
・血液培養と痰培養は通常の治療に耐性の微生物が発見される可能性が低いので行わない。冒頭にも書きましたが、これはちょっと異議ありです。これがベストだとは思いません。

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