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2013年8月

2013年8月29日 (木)

Severe sepsis and septic shock

NEJMにSevere sepsisとSeptic shockのレビューがでていたので読んでみました。
Surviving sepsis campaign guidelineにほぼ準拠した内容にはなっています。
自分で直接管理する機会がないとどんどん知識が遅れていってしまうので、アップデートのつもりでまとめました。以下が抄訳です。

個人の勉強用なので内容には誤訳などあるかもしれませんのでご注意ください。データについては原著の図表を確認してください。

Angus DC, van der Poll T.
Severe Sepsis and Septic Shock.
 
New England Journal of Medicine. 2013;369(9):840–51.
 

・敗血症はヒポクラテス、ガレノスの時代から認知されていた。
・微生物が病原体であることが判明してからは病原体が血流に入ったものと考えられるようになった。
・しかし抗菌薬の開発以降、病原体を排除しても患者さんが死んでしまうことがわかり、これは宿主側の反応なんだろうということになった
・1992年国際的な合意でSepsisは感染症に対する全身の炎症反応であると定義された。
・各種の感染症を原因として敗血症は起こり、Septisemia(菌血症)は必ずしも必要ではなく、用語としても推奨されなくなった。
・臓器障害を伴うものをSevere sepsis、補液に反応しない低血圧を伴うものをSeptic shockと呼ぶよう提唱されている。

Incidence and causes

・統計の取り方に依存するが、米国では入院の2%が敗血症によるもので、そのうち半分はICUで治療を受ける。またICU入室の10%がSepsisによる
・現任で最も多いのは肺炎。半分くらい。
・ついで多いのは腹腔内感染症、尿路感染症。
・血培陽性は1/3、培養で何もつかまらないのが1/3くらい。
・GPCではS. aureusとS. pneumoniae
・GNRではE. coli、Klebsiella, P. aeruginosaが多い
・以前はGPC>GNRだったが最近はGNR>GPCになってきている

Clinical features

・症状は感染症の臓器や微生物、ホスト側の状態によって様々になる。
・おかげで最新の国際的ガイドラインで示されているリストはえらく長くなっている。

image

個人的にはSIRS+感染症だよ、といった方が教えやすくて楽なんですが…

・臓器障害がでやすいのは呼吸器、心血管系。
・肺では古典的にはARDS。
・循環不全は低血圧、乳酸値の上昇として出現。血圧は補液しても戻らないことがしばしばで昇圧薬が必要になる。
・神経、腎臓もしばしばやられる。
・神経系の徴候はせん妄、鈍麻。多発神経障害やミオパチーもある。
・AKIは尿量の低下とクレアチニンの上昇でみられる。しばしば腎代替療法が必要になる。
・麻痺性イレウス、トランスアミナーゼの上昇、血糖コントロールの以上、Euthyroid sick syndromeもしばしばみられる。

Outcome

・昔は死ぬのが普通だったが、最近は死亡率20-30%くらいになっている。
・生き残って退院しても数ヶ月から年余にわたって死亡リスクが高いらしい。

Pathophysiology

臓器障害

・敗血症の初期を乗り切ってもICUでケアを受けている患者は免疫抑制状態にあることが知られている。

Treatment

・Surviving sepsis campaign ガイドラインはガイドラインの第3版を出した。
・初期の6時間で達成すべき目標とICUでのケアでなされるべき目標の2つのバンドルからなっている。

ケアの要素 Grade
蘇生  
6時間以内にGoal directed resuscitationを開始    1C
晶質液で輸液を開始し、アルブミンの追加を検討 1B
動脈圧を保つのに晶質液が大量に必要な場合はアルブミンの追加を検討 2C
ヘタスターチは避ける 1C
組織の低灌流がありボリューム不足が疑われる患者ではfluid challengeを行う。投与量は体重1kgあたり晶質液30ml以上 1C
循環動態が改善するまでfluid challengeを続ける 1C
昇圧剤の第1選択はノルエピネフリン、MAP≧65mmHgを目標 1B
血圧維持にさらに昇圧剤が必要になったらエピネフリンを追加 2B
可能ならノルエピネフリンをウィーニングしてバソプレッシン(0.03U/分)を追加 なし
一部の選ばれた患者以外はドパミンは避ける(不整脈のリスクが低い、心室の機能低下が明らかか、HRが低い) 2C
次の場合はドブタミンをバソプレッシンに追加:心筋の機能低下(心室充満圧が上昇または心拍出量の低下)、または十分な血管内ボリュームとMAPがあっても組織の低灌流がある場合 1C
補液と昇圧剤で循環が保たれていればステロイドは使わない。ヒドロコルチゾンを使う場合は200mg/日 2C
低灌流、重篤な冠動脈疾患、心筋虚血、活動性の出欠がなければ、ヘモグロビンの目標は7-9g/dに設定 1B
感染症の治療  
抗菌薬開始前に血液培養!! 1C
感染臓器を明らかにするために画像検索を行う なし
Severe sepsisかSeptic shockの診断がついたら1時間以内に広域抗菌薬を投与 1B/1C
毎日De-escalationを検討 1B
診断から12時間以内にソースコントロールを行う。方法のリスクとベネフィットはよく検討 1C
呼吸のサポート  
ARDSには1回換気量を少なく、吸気のプラトー圧を制限する 1A/1B
ARDSではPEEP圧を最低限に保つ 1B
敗血症によるARDSの場合は高めのPEEPに設定する 2C
ARDSでの低酸素が重症な場合はリクルートメントを行う 2C
P/F ratio <100mmHgで経験のある施設なら腹臥位療法を行う 2C
禁忌でなければ人工呼吸管理中は頭部を挙上する 1B
ARDSの際は組織の低灌流がなければ補液はしぼる 1C
ウィーニングのプロトコールを用いる 1A
中枢神経のサポート  
鎮静のプロトコールを用いる 1B
ARDSない患者は可能であれば神経筋遮断薬は避ける 1C
重症のARDSでは早期に短期間(<48時間)の神経筋遮断薬を用いる 2C
全体の補助療法  
血糖のコントロール目標は<180mg/dlに設定する、血糖コントロールのプロトコールを定めて、血糖値が2回以上180mg/dlを超えたらインスリンを投与開始する 1A
CVVHか間欠的なHDを腎不全やボリューム過剰に対して行う 2B
DVT予防を行う 1B
消化管出血予防にストレス潰瘍の予防を行う 1B
診断がついてから48時間以降は絶食や点滴だけでのブドウ糖投与ではなく、可能であれば経口か経管で栄養を投与する。 2C
ケアのゴールを設定する。必要であれば終末期のプランも検討する 1B

・初期治療の原則は循環器呼吸を蘇生して、感染症のコントロールをつけること。
・初期治療に用いる補液の量、種類、血行動態のモニタリングの方法、血管作動薬の役割などはまだ議論があり臨床試験が行われている。
・経験的な抗菌薬の選択は疑われている感染症のフォーカス、感染症の起きた場所(市中、病院、施設)、アンチバイオグラムによって決まる。
・抗菌薬の投与が遅れたり、不適切だった場合は死亡率が上昇する。
・抗菌薬はできるだけ早く装丁される微生物をカバーしたものが投与されるべきである。
・抗菌薬の併用がよいアウトカムと関連するかははっきりしない。
・現在のガイドラインでは好中球減少症の時と緑膿菌による敗血症の際に併用が推奨されている。
・抗真菌薬は侵襲性のカンジダ症のリスクが高い患者でのみ投与する。
・可能であればDe-escalationをする。
・De-escalationは耐性菌の出現を減らし、薬剤のリスク、コストを削減する。
・De-escalationは観察研究で安全性を確かめられている。
・Immunomodulatory therapyで今のところ推奨されているのは治療に反応しない敗血症性ショックの患者に対する短期間のヒドロコルチゾンのみ(200-300mg/日 7日間または昇圧剤が不要になるまで)。
・ステロイドについてはさらにスタディが走っている。

Search for new therapies

・病態が解明されても治療になかなか結びつかない。
・サイトカインカスケードを阻止する薬剤と凝固異常を阻止する薬剤が研究されている。
・活性型プロテインCは市場に投入されたが、追試では結果がでず、市場から撤退した。
・ステロイド、免疫グロブリンは注目はされているが、ルーチンでの使用が推奨されるまでは至っていない。
・スタチンが観察研究では死亡率を減らすといわれているが、まだRCTでは確認されていない。

2013年8月 8日 (木)

人工関節感染症のIDSAガイドライン

いささか旧聞に属しますが、IDSAから出た人工関節感染症 (PJI) のガイドラインの推奨部分だけ抄訳したのでアップします。ちょうど1年前(といっても記事としては2つ前ですが)には骨髄炎に対する抗菌薬のレビューを読んだので、期せずして骨関節関連の話題ばかりが続いてしまっていますが、別にそれにばっかり興味があるわけではありません。

 

Osmon DR, Berbari EF, Berendt AR, Lew D, Zimmerli W, Steckelberg JM, et al. Executive Summary: Diagnosis and Management of Prosthetic Joint Infection: Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2013 Jan 1;56(1):1–10.

 

このガイドラインの本文を読んで興味深いところは「満場一致では決まっていない」といったことがはっきりと書いてあることです。「データがないのでエキスパートオピニオンで書いてるところもたくさんあるし、一つの状況に対して複数の有効な方法があることもあるよ」とも書いてあります。

 

以下は抄訳です。このブログは個人的なメモなので、訳に間違いがある可能性大なので詳細は原典をご確認ください。同じような内容の繰り返しになってるところはちょっと端折ってます。

 

1. What preoperative evaluation and intraoperative testing should be performed to diagnose PJI and what is the definition of PJI?

 

1.PJIの定義は?

 

PJIの診断をするために必要な術前評価、術中に必要な検査は何か?   
・関節の人工物からの瘻孔や持続する排液   
・人工物の部分の急激な痛み   
・埋め込みから最初の数年で慢性的な人工物の部分の疼痛(特に疼痛なしの期間がない場合)   
・創傷治癒遷延の既往   
・表層または深部感染の既往

 

2.身体所見と問診が重要。   
問診で確認すべきは   
・人工物の種類   
・いつ埋め込んだか   
・関節の手術の既往   
・埋め込み術後の創傷治癒遷延の既往   
・関節以外の場所の感染症   
・現在の症状   
・薬剤アレルギー   
・合併症   
・穿刺液または手術で得られた検体の微生物検査結果   
・PJIに用いられた抗菌薬(局所抗菌薬も含む)

 

3.PJIを疑うが、診断がはっきりしない場合は血沈、CRPを調べる(!?)   
血沈とCRPの組み合わせが感度特異度が最善と思われる。

 

4.PJIを疑う時は関節の単純レントゲンを撮る

 

5.全例診断目的の関節穿刺を行う   
・例外は臨床的に感染が明らかですでに手術が予定されていて、手術まで抗菌薬を投与しなくても大丈夫な場合   
・原因のはっきりしないCRPや血沈の上昇があり、慢性的な人工物の痛みがある場合も関節穿刺が推奨される。   
・すでに手術が予定されていて、関節穿刺の結果でマネジメントが変わらないならいらないかもしれない。   
・関節液は細胞数、白血球分画、培養を行う。   
・臨床的に必要があれば結晶の評価を行う。

 

6.臨床的に安定していれば、関節液の穿刺前に最低2週間ほど抗菌薬を控えると微生物の検出率が上がる

 

7.発熱がある場合、急性の症状がある場合、血流感染の可能性が高い他の感染症や微生物(特にS. aureus)が疑われる場合は血液培養を採取する

 

8.PJIでルーチンに骨シンチ、白血球スキャン、MRI、CT、PETを行う必要はない

 

◇術中のPJI診断

 

9.術中に人工物周囲から得られた検体の病理学的検索は病理医が解釈に慣れていれば最も信頼のおける検査法である。臨床的にPJIが疑われ、検査結果でマネジメントが変わる場合には行った方がよい。例えば2段階での関節の交換をするか、revision arthroplastyをするかの判断が必要な場合。

 

10.最低2箇所、理想的に5,6箇所の人工物周囲の組織または抜去された人工物そのものを培養検査に回すべきである。微生物学的な診断のチャンスを最大限にするためである。

 

11.可能なら術前に最低2週間抗菌薬を中止すると術中に採取された検体での培養検出率が上がる。

 

 

 

◇PJIの定義

 

12.人工物とつながる瘻孔はPJIにの存在の証拠である

 

13.人工物を抜去またはデブリする時に採取した人工物周囲の組織で病理学的に急性炎症の存在が認められれば、強くPJIの存在を示唆する

 

14.他に明らかな原因のない人工物周囲の排膿はPJIがある証拠である

 

15.術中の検体または術前の穿刺液との組み合わせで2検体以上の培養で同じ微生物が検出されたら、PJIはほぼ確実である。毒性の強い微生物(S. aureus)が一検体で検出された場合もPJIを示唆する可能性が高い。複数検体から一つだけ常在菌(Propionibacterium acnes、CNS)が検出された場合はPJIとは決め付けず、他の所見もふまえて判断する

 

16.上記を満たしていなくてもPJIは存在することがあり、臨床医は自らの臨床的判断で得られた所見を判断する。

 

II. What different surgical strategies should be considered for treatment of a patient with PJI?

 

PJIの治療にどのような外科治療の戦略があるか?

 

17.最終的にどのような外科治療を行うかの判断は整形外科医が行う。必要に応じて感染症科、形成外科などにコンサルテーションをする

 

18.人工物を残して、デブリのみの戦略を考慮するのは以下の条件を満たす人   
・人工物がよく固定されている   
・瘻孔がない   
・挿入してから30日以内か症状出現から3週間以内

 

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・条件は満たさないものの、他の手術が不可能または高リスクすぎる場合は人工物を残してデブリのみの治療を考慮するが再燃の危険性は高い

 

19. 2段階での入れ替えは米国ではよく行われる。対象となるのは外科医が再植え込みが可能と考える、内科的に2回の手術に耐えられて、1段階での入れ替えができない人。再植え込みが可能かどうかは残存する軟部組織と骨組織の欠損にもとづいて評価する。

 

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・入れ替え前に血沈とCRPをとって、植え込み後の治療成功をアセスメントする。状況によっては2段階での入れ替えを複数回行なってもうまくいく状況もある。

 

20. 一期的な抜去と入れ替えは米国ではあまり行われていない。   
・THA後の感染症で軟部組織の状態がよくて、菌も捕まっていて、内服の薬に感受性がある場合は考慮してもいいかも   
・骨のグラフトが必要だったり、セメントに有効な抗菌薬が混ぜられなかったりすると失敗のリスクは高まる。

 

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21. 歩いていない人であれば切除して関節形成してしまうのも考慮。

 

・例えば骨のストックがない、軟部組織で覆えない、耐性の強い微生物での感染、合併症で手術に耐えられない、以前の2期的な交換で失敗し、これ以上の失敗のリスクをとるのが難しいケース

 

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III. What is the medical treatment for a patient with PJI following debridement and retention of the prosthesis?

 

デブリとデバイス留置のみで治療した場合の内科的治療は?

 

-Staphylococcal PJI-

 

23. 2-6週間の病原菌に特異的な点滴+RFP300-450mg1日2回の治療が行われたあと、RFP+感受性のある薬剤の内服で THAなら3ヶ月、TKAなら6ヶ月治療する。肘、肩、足関節はTHAと同じように治療する。RFPと組むのはCPFXかLVFX。キノロンが使えない場合はST、MINO、DOXY、第1世代セファロスポリン(セファレキシン)抗ブドウ球菌ペニシリン (これらに限るわけではない)。もしRFPが併用できないのなら点滴での治療期間を4-6週間に伸ばすようにガイドラインパネルは推奨。

 

25. 上記のレジメンの後にさらに追加で長期投与を行う場合もある。その場合に使うのはセファレキシン、ジクロキサシリン、ST、MINOなど。感受性にあわせる。長期抑制にリファンピン単独では使わないこと。RFPを併用で長期抑制に使う人もいる。満場一致で決まったわけではない。

 

Image(72)

 

-PJI Due to Other Organisms-

 

26. 4-6週間の点滴投与

 

28. 長期抑制をすることもある。レジメンは患者にあわせる。キノロンで治療した後に長期抑制をするかどうかは満場一致にならず。ほかはブドウ球菌の場合と同様

 

IV. What is the medical treatment for a patient with PJI following resection arthroplasty with or without planned staged reimplantation?

 

切除して関節形成して、入れ替えをする場合(しない場合も含む)の内科的治療は?

 

29. 4-6週間の点滴投与

 

V. What is the medical treatment for a patient with PJI

 

following 1-stage exchange?

 

1期的な入れ替えをやった人の内科的治療は?

 

-Staphylococcal PJI-

 

31. 2-6週間の点滴治療をRFP300-450mg×2と併用

 

その後RFPをと内服での治療を3ヶ月。RFPと組むのはCPFXかLVFX   
キノロンが使えない場合はST、MINO、DOXY、第1世代セファロスポリン(セファレキシン)抗ブドウ球菌ペニシリン (これらに限るわけではない)   
もしRFPが併用できないのなら点滴での治療期間を4-6週間に伸ばすようにガイドラインパネルは推奨。(23.とほぼ同じ内容)

 

33. 上記のレジメンの後にさらに追加で長期投与を行う場合もある。

 

その場合に使うのはセファレキシン、ジクロキサシリン、ST、MINOなど。感受性にあわせる。長期抑制にリファンピン単独では使わないこと。RFPを併用で長期抑制に使う人もいる。満場一致で決まったわけではない。(25.と同じ内容)

 

-PJI Due to Other Organisms-

 

34. 4-6週間の点滴投与

 

36. 33.と同じ内容

 

VI. What is the medical treatment for a patient with PJI

 

following amputation?

 

アンプタした場合は?

 

37. 菌血症や敗血症の持続がなければ、すべての組織をとったあと24-48時間で抗菌薬を終了。敗血症とかがあればその状態に応じる。

 

38. もしアンプタした後にも感染した組織が残存した場合は4-6週間の点滴治療を推奨。

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