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2011年2月

2011年2月17日 (木)

IDSA Febrile neutropenia のガイドライン その3

IDSAのFNガイドラインの抄訳。最終回です。

IX. 抗ウイルス薬の予防投与は?どのウイルス疾患が抗ウイルス薬による予防の適応か?
35. HSCTか白血病の寛解導入する人でHSVがSero-positiveの人はアシクロビルで予防する。(A-I).

36. HSVとVZVの抗ウイルス薬による治療はウイルスによる疾患が明らかなときにのみ行う。(C-Ⅲ)

37. 上気道症状や咳がある患者では呼吸器感染ウイルス(RS、インフルエンザ、パラインフルエンザ、アデノ、hMPV)の検査と胸部レントゲンを推奨。(B-III).

38. がん患者には毎年の不活化インフルエンザワクチンを推奨。(A-II).どのタイミングでワクチンをうつのが最適かははっきりしないが、おそらく血清の抗体価の反応が最もよいのは化学療法のサイクルの間だと考えられている。具体的には最後の治療から7日以上か、次の治療の開始の2週間以上前(B-III)。

がん患者のインフルエンザワクチンにはレビューが他にもあります。
この日数の推奨の根拠は結構古そう

39. インフルエンザ感染はノイラミニダーゼ阻害剤で治療する。(A-II)インフルエンザの暴露があるか、アウトブレイクしている状況ではインフルエンザ様の症状を呈している好中球減少症の患者にはノイラミニダーゼの経験的投与を行う。(C-III).

40.RSVに対する治療は上気道症状を呈している好中球減少患者にルーチンではない。(B-III).

X. G-CSF、GM-CSFのFNマネジメントにおける位置づけは?
41.発熱性好中球減少症のリスクが20%以上の患者ではCSFの予防的な投与を考慮する。(A-II).

42. すでに起きてしまったFNの治療にCSFは推奨しない。(B-II).

XI. FN患者のカテーテル関連血流感染症をどうマネジメントするか?
43. 同時にとられたカテ血と末梢血培養の陽性化までの時間差(Differential time to positivity :DTP)>120分の場合はカテーテル関連血流感染症を示唆する。(A-II).

末梢血とカテ血培養の陽性化までの時間差(DTP)がずいぶん前面にでてきた印象を受けます。2009年のカテ感染のIDSAのガイドラインでも言及されていますが。今回のFNのガイドラインでも血液培養を採取する時、CVが入っていればそこからも1セット、という推奨になっているのはこのDTPを意識したものと思われます。(2つ前のエントリで訳しています

複数のルーメンがある場合はどのルーメンからとるか?そりゃ全部のルーメンですよ

44. S. aureus, P. aeruginosa、真菌、MycobacteriaによるCLABSIでは最低14日間の全身的な抗菌薬の投与に加えて、カテーテルの抜去を行う。(A-II) カテーテルの除去はトンネル感染、ポケット感染、血栓性静脈炎、心内膜炎、血行動態が不安定な敗血症、72時間以上治療しても改善しない場合にも推奨される(A-II).

45. CNSによるCLABSIはカテーテルを残しておいてもよいかもしれない。抗菌薬ロック療法の併用も考慮。(B-III).

CNSだったらカテーテルを残しておいても治療のアウトカムはかわらなかった、という報告がありました。といっても再発はかなり多くなるようですが・・・論文のFirst authorであるI. Raad先生はこのガイドラインの筆者の一人でもあります。

46. 合併症のあるCLABSIは4~6週間の治療を行う。合併症とは深部への播種性感染、心内膜炎、感染性血栓症である。(A-II)
なお血液培養が72時間以上陰性化しない場合も合併症のあるものとして扱う。(A-II for S. aureus, C-III for other pathogens).

47. CV挿入時は手指衛生、マキシマルバリアプレコーション、クロルヘキシジンによる皮膚の消毒を行う(A-I).

日本には2%のクロルヘキシジンがないのでしばらくはイソジンでしょう。

XII. FN患者を診療するのにどのような環境の整備が必要か?
48.病院内では手指衛生が最も効果的な感染予防である。(A-II).

49.すべての患者にはスタンダードプリコーションを適応し、患者の症状や所見に応じて感染経路別の予防策を導入する。 (A-III).

50. HSCTの患者は個室に収容する。(B-III). 同種のHSCTの患者の部屋はHEPAフィルターつきで12回/分以上の換気ができるようにする。(A-III).

51. 植物、生花、ドライフラワーは入院している好中球減少の患者の部屋にはおかない。(B-III).

52. 病院の職員が具合が悪いときには職場を離脱できるように状況を整えておく(A-II).

具合の悪いときに根性で働いても誰にもいいことありません。

ということでFNガイドラインの抄訳はこれでおしまいです。

2011年2月14日 (月)

IDSA Febrile neutropenia のガイドライン その2

IDSAのFNのガイドラインの抄訳、続きです。

V. エンピリックな抗菌薬の投与はいつまで行うべきか?


22.臨床的にか、細菌学的に感染症が同定されたら、治療期間は臓器と微生物に準じる。少なくとも好中球減少症の間は抗菌薬は投与するし、必要なら好中球が回復してからも続ける。 (B-III).

23.原因のわからない熱が続く場合は最初のレジメンを好中球が明らかに回復するまでは続ける。伝統的にはANC>500以上。  (B-II).

24. 判明した感染症の治療期間が完遂して、症状、所見ともにすっかりよくなっていてもまだ好中球減少の状態が続いている場合は内服キノロンの予防レジメンに変更して好中球が回復するまで継続するという手もある。(C-III).


VI. いつ抗菌薬を予防投与して、どの薬剤で行うか?
25.  好中球減少が強く、長期間続くことが予測される場合はキノロン内服による予防投与も検討する。(B-I). レボフロキサシンとシプロフロキサシンがもっともよくスタディされていて、どちらも大雑把には同等と考えられている。しかし口腔粘膜炎に伴うViridans streptococcusによる侵襲性の感染症のリスクが高い状況ではレボフロキサシンの方が好まれる。GNRのキノロン耐性がどれくらいでてくるかを定期的にモニタリングするシステムを構築しておくことが推奨される。(A-II).

好中球減少時のViridans streptococcusによる侵襲性の感染症についてはこちらを参照。

26. グラム陽性菌に対する活性をもつ薬剤をキノロンの予防投与に追加するのは推奨されていない。(A-I).

27. 7日以内に好中球減少が回復することが予想される低リスクの症例で、ルーチンに抗菌薬を予防投与するのは推奨しない。(A-III).

VII. 抗真菌薬のエンピリックまたはPre-emptiveな投与の役割は?どの薬剤を用いるか?
 ハイリスクの場合
28. 好中球減少の期間が7日を超えることが予想される患者で、発熱が抗菌薬開始後も4-7日目で熱が続いている場合は、エンピリックな抗真菌薬の投与と侵襲性真菌感染症の評価をする。(A-I) すでに糸状菌に対する予防投与が入っている患者の場合にどの抗真菌薬がいいのかを推奨できるほどのデータがないが、系統の違う別の抗糸状菌作用のある薬剤の点滴静注への変更を考慮する。(B-III).

29. エンピリックな抗真菌薬の投与だけでなく、Preemptiveな抗真菌薬の投与という方針もありえる。全身状態が安定していて、胸部・副鼻腔のCTで糸状菌感染の所見がなく、血清マーカーも陰性で、体のどこからも真菌が検出されていない患者では抗真菌薬の投与を待ってもいいかもしれない。(B-II) 抗真菌薬はこれらの指標のいずれかが陽性化した場合に投与開始する。

このへんが今回の改訂の新しくでたところですね。
抗真菌薬の投与をEmpiricにいくのではなくて、画像や血清マーカーの組み合わせで疑わしいと判断した症例だけに行うのがPre-emptiveと呼ばれる治療です。(違う呼び方をする人もいるかもしれません) このへんのスタディが嚆矢となって提唱されてきつつある戦略です。
遷延する発熱の際に対するマネジメントは単に抗真菌薬の比較だけではなく、Empiric therapyとPre-emptive therapyのどちらの戦略を採用するかという比較になってきています。今のところガイドラインの本文を読む限りはPre-emptive therapyの方は実験的な治療であって、スタンダードではない、という位置づけのようです。
おそらく施設によって真菌症の発症率は結構異なるので、それを踏まえてどちらの戦略をとるのが合理的かを個々に検討する必要があるのだと思っています。

低リスクの場合

30. 低リスクの患者では通常真菌感染症のリスクは低いので、ルーチンでエンピリックな抗真菌薬の投与するのは推奨しない。(A-III).

VIII. 抗真菌薬の予防投与はいつ行うか?どの薬剤で行うか?
 ハイリスクの場合
31. カンジダ感染症に対する予防投与は、リスクがかなり高い患者群では推奨される。HSCT、白血病の寛解導入、サルベージのインダクション。 (A-I) 薬はフルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、Posaconazole、ミカファンギン、Caspofunginが選択肢。

32.Aspergillus感染に対するPosaconazoleでの予防投与はAMLかMDSに対して強い化学療法を行う13歳以上の患者で、予防がなければアスペルギルス感染症を起こすリスクが高いと考えられる場合には考慮する。(B-I).

33. 移植患者で生着前にAspergillusの予防投与に効果があるかどうかはわかっていない。しかし侵襲性のアスペルギルス感染症の既往がある(A-III)、または好中球減少の期間が2週間を超えるようなら(C-III)、糸状菌に活性のある抗真菌薬を投与を推奨する。(C-III)

 低リスクの場合
34. 好中球減少の期間が7日を超えない症例ではルーチンでアスペルギルスの予防投与は推奨されない。(A-III).

今回はここまで。

2011年2月 8日 (火)

IDSA Febrile neutropenia のガイドライン

数年前から出る出るといわれてたIDSAの発熱性好中球減少症のガイドラインがようやく出ました。
今年に入ってからMRSA、FNと続いています。
例によってSummaryの部分を少し訳しました。あくまで個人の勉強用ですので、誤訳などある可能性があります。情報が必要な人は原典にあたってくださいね。

ところどころコメントが入っています。

GUIDELINE RECOMMENDATIONS FOR THE EVALUATION AND TREATMENT OF PATIENTS WITH FEVER AND NEUTROPENIA
Clin. Infect. Dis. 2011 Feb;52(4):e56-93.

I. リスクアセスメントの役割。何がFN患者のハイリスクと低リスクを分けるのか?
MRSAのガイドラインもそうでしたが、章のタイトルがみんな疑問文です。
Recommendations
1. 発熱をみた時点で重症感染症による合併症のリスクをアセスメントすること。(A-II)
リスクによって薬剤の投与経路(経口か点滴か)、治療の場(入院か外来か)、治療期間が変わってくる。(A-Ⅱ)

2. 多くの専門家が考えるリスクの高い症例とは以下
・7日以上の長期にわたる好中球減少
・好中球減少が深刻(≦100)
・and/or 合併症がある(低血圧、肺炎、腹痛の出現、意識障害)
これらの症例はまずは入院させるべきである。(A-II).

3. リスクの低い患者(好中球減少が短い、合併症がない)は内服治療の候補である。(A-Ⅱ)

4. ちゃんとしたリスク設定をするならMASCCスコアを使いましょう(B-Ⅰ)
 i. MASCCスコア<21は高リスク。MASCCスコアか、臨床的なクライテリアでハイリスクとされた人は入院させましょう。(B-I).
 ii. MASCCスコア≧21は低リスク。(B-Ⅰ) 内服または外来での経験的治療の患者は慎重に選ぶこと。(B-Ⅰ)

II. 初期評価としてどのような検査と培養を行うか?
Recommendations
5. 初期の検査は血算、BUN/Cre、電解質、トランスアミナーゼ、ビリルビンくらいはすること。(A-III).

6. 血培は最低2セット。もし留置されているCVがあれば同時にそのルーメンからも採血する。CVがなければ末梢から2セット採取。(A-III)
体重40kg未満の患者(本文を読むと小児のことのよう)では血培の採血量は総血液量(通常は70mL/kg)の1%未満にすること(C-Ⅲ)

カテ血からの採取については複数のルーメンがあればその全てから採取した方がよいと本文には記載があります。

7. 臨床的に疑わしい部位があればそこからも培養をとる(A-Ⅲ)

8. 呼吸器の症状や所見があれば胸部レントゲンもとる。(A-Ⅲ)
まあそりゃそうだ。

III. どの抗菌薬を使うか?どこで治療するか?
Recommendations
General Considerations

9. ハイリスクの患者では点滴抗菌薬でのエンピリック治療を行う。
抗緑膿菌作用のあるβラクタムの単剤(CFPM、PIPC/TAZ、カルバペネム)を推奨する。(A-Ⅰ)
他の抗菌薬(AG、FQ、VCM)は肺炎とか低血圧とかの合併症があるときや、耐性の感染症が疑われるか証明されている際に追加を検討(B-Ⅲ)

セフタジジムは推奨から落ちました。GNRの耐性が広がってきたのと、連鎖球菌などのGPCにカバーが弱いのが根拠のようです。前回のGLではβラクタム±アミノグリコシドという推奨だったのが、晴れてβラクタム単剤が推奨されています。

FNでの際の使用に安全性の問題があるのではないかという疑義が呈されて議論を呼んだCFPMはその後の研究ではっきりした結果がでなかったので残りました。

10. バンコマイシンを含むグラム陽性球菌活性のある薬剤をFNの初期治療にルーチンで使用するのは推奨しない(A-Ⅰ)
カテ感染、軟部組織感染症、肺炎、血行動態が不安定といった限られた病態では考慮する。

11.耐性菌の感染が疑われる状況、菌血症が疑われる場合や患者の状態が不安定の場合は初期治療の抗菌薬の修正を考慮すること。(B-Ⅲ)
 i. MRSAなら早期にVCM、LZD、ダプトマイシンの追加を。(B-III).
 ii. VREならLZDかダプトマイシンの早期の追加を。(B-III).
 iii.ESBLならカルバペネムの使用を考慮。(B-III).
 iv. KPCならコリスチンかチゲサイクリンの早期の使用を。(C-III).

12. ほとんどのペニシリンアレルギーの患者はセファロスポリンは問題なく使用できる。しかし即時型のアレルギー(じんましん、気管攣縮)の既往がある場合はβラクタムをさけて、CPFX+CLDMやAZT+VCMなどで治療を開始する。(A-II).

13. 無熱の好中球減少患者でも感染症を疑わせる症状や所見があればハイリスク患者として評価して治療を行う。(B-III).

14. 低リスク患者を内服または点滴で治療する場合でも、医療現場で投与を行うこと。臨床的な基準を満たせば、外来での治療に移行する。(A-I).
 i. CPFX+AMPC/CVAは内服でのエンピリック治療に推奨する。(A-Ⅰ)LVFXやCPFXの単独投与とかCPFX+CLDMとかはあまり研究されていないが、実際のところはよく使われている(B-Ⅲ)
 ii. LVFXを予防投与に使っていた人は初期治療にLVFXを使わないこと(A-Ⅲ)
  iii. 熱が続いたり、状態が悪化した場合は入院させること(A-Ⅲ)

IV. 治療開始後にいつどうやって治療を推奨するか?
Recommendations
15. 初期投与の抗菌薬の調整は臨床的なデータと微生物学的な結果によって行う。(A-II).

16. 熱が続く原因がはっきりしないが、それ以外は安定している患者の場合、初期治療の抗菌薬を変更する必要はほとんどない。感染症が同定されたら、抗菌薬をそれに応じて変更する。(A-I).
とりあえずバンコマイシンを突っ込んでみても、解熱するまでの期間は変わらなかった、というスタディがあります。

17. 臨床的・微生物学的に同定された感染症は臓器と感受性にあわせた抗菌薬で治療する。(A-I).

18. 初期投与の抗菌薬にバンコマイシンも追加されていた場合、GPCによる感染症の証拠がなければ2日で終了してもよい。(A-II).

19. 治療開始後も血行動態が不安定な場合は抗菌薬のカバーを耐性のGNR、GPC、嫌気性菌、真菌に広げた方がよい。(A-III).

20. 低リスクの患者で病院内で治療を始めた人は状態が安定していれば治療を簡易化してもよい。(A-I).
 i. 腸管からの吸収に問題がなさそうな人は点滴から内服に変更してもよい(A-I).
 ii. 入院していても低リスクと判断される人は外来に治療の場をうつしてもよい。ただし毎日十分なフォローアップができることが前提。(B-III). 発熱が持続するか、48時間以内に再度発熱がみられた場合は、再入院させてハイリスク群と同様にマネージメントすることを推奨する。 (A-III).

21. 広域抗菌薬開始から4-7日経過しても発熱が持続して、感染源がはっきりしない場合は抗真菌薬のエンピリックな投与を考慮すること。(A-II).

今回はここまで続きはまた今度。

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