脳膿瘍の歴史的レビュー
脳膿瘍の歴史的なレビュー
Mathisen GE, Johnson JP.
Brain abscess.
Clin Infect Dis. 1997;25(4):763-79
PMID: 9356788
を読んだ時のノートです。
歴史的な変遷
口腔内由来の感染→臟噐移植、免疫不全者の病気へ
●Pathophysiology
本来脳は細菌感染には非常に強い。 菌血症ではそう簡単に脳膿瘍にはならない。
よって一番脳膿瘍の原因として多いのは近接臓器からの波及。
(中耳炎、副鼻腔炎、歯周病)
もともと脳に器質的なダメージ(梗塞の既往、血腫など) があるとなりやすい。
20-30% はCrypticすなわちどこからはいったのかよくわからない。
典型的な経過:
最初は脳炎Cerebritis( Encepharitisとは違う壊死を伴う脳の炎症) からスタート。
その後2週間程度でカプセルの形成にいたる。
Clinical presentation
頭痛がもっとも多い。激しい頭痛や突発した頭痛はまれで、
その場合は合併した髄膜炎やクモ膜下出血のことがある。
発熱はこれまでのケースシリーズによれば<50% !
熱がないからといって除外してはいけない。
巣症状がでるのは3分の1から2分の1. 症状はできてる場所による。
血液検査にも特異的なものはない。
●画像
CT
初期ではCerebritisの部分はLowにみえる。
周囲がエンハンスされていると古典的な脳膿瘍の所見だが、 1分ほどおいて
撮りなおすと中心部分がきちんと造影されていることがあって、 それはまだCerebritisの段階。
メタとの区別はよく問題になる。 一般的にはメタの方が境界が不明瞭。
しかしまったくもってよく似た所見になることもしばしば。
(著者も多発メタとして放射線してみたが、 後になって脳膿瘍とわかった人を見たことがあるそうだ)
MRI
CTよりも軟部の描出にはすぐれる。
ステージング(膿がたまって刺し時かどうか) にもMRIの方が有用。
1- 2週間おきにCTかMRIを撮っていくと治療効果判定と追加ドレ ナージの必要性の評価ができる。
AIDSの患者ではSPECTを用いるとリンパ腫とトキソプラズ マの鑑別に有用といわれている。
●Therapy
◇抗菌薬
しばしばPolymicrobialである。
これまでのケースシリーズで多いのはViridansと嫌気性菌 である。
あとはソースによるがS.aureusと腸内のGNR
ソースによって抗菌薬の初期治療を選ぶ。
副鼻腔と歯科関連由来の場合はPCG+ MTZで大体カバーできる。
人によっては第3世代セフェムもかぶせる。
中耳由来の場合はP. aeruginosaなどのGNRのカバーも考慮。 慢性感染があると
これらの病原体がついていることも多い。
抗菌薬の髄液移行はでーたがあるが、 脳膿瘍腔にどれくらい抗菌薬が移行するかの
データはほとんどない。
BBBと血液-髄液関門は別物なので、 髄液濃度だけで効果を予測すべきでないという意見もある。
データは少ない話であるが、、
PCGは髄液移行は大してよくないが、 脳膿瘍腔にはかなりの濃度を達成することが知られている。
合成ペニシリンの濃度は様々なようだが、 臨床的に使っていけないという話はない。
第1世代セフェムは髄液に移行しないので使用はダメ。
バンコマイシンは髄液移行が悪いが、 膿瘍腔には移行がよかったらしい。
ただし炎症があったからという話もあるが、使う根拠にはなる。
メトロニダゾールは嫌気性菌に効果が強いし、薬物動態もよいし、 腸管からの吸収もよい。
ただしStreptococcusには聞かないのでβラクタムと 併用する。
第3世代セフェムはこの時点では期待できるという記載のかんじ。
髄膜炎の治療ではかなりよい。
Moxalactam(シオマリン) は日本から10例を治療したというケースシリーズがある。
フルマリンは?書いてない・・・
ユナシンは11人を治療したというケースシリーズがある。
膿瘍中の濃度はばらばらだったが概ねよかったよう。
Akova M, Akalìn HE, Korten V, Ozgen T, Erbengi A.
Treatment of intracranial abscesses: experience with sulbactam/ampicillin.
J Chemother. 1993;5(3):181-185.
(アブストをみてみるとアンピシリンが100mg・kg qidとあるので結構な量を積んでの話のようだ)
カルバペネムは耐性菌にとっておいた方がよいだろう。
キノロンは中枢神経移行はよい。 βラクタムに反応しなかったSallmonellaの脳膿瘍をキ ノロンで治療
したという報告もある。痙攣には注意。
治療期間は古典的には6~8週間の点滴投与。
3週間程度の点滴でいいという報告もある。
大きさなどケースバイケースだが・・ここではやっぱり6~ 8週が推奨。
根拠ははっきりないが、多くの医師は点滴投与終了後2~ 3ヶ月の内服治療の追加を推奨している。
手術がどうしてもできない場合2cm以下の膿瘍であれば、 保存的に治療することもある。
しかしこの場合は3ヶ月以上の点滴抗菌薬をすることになる。
最終的にはNeedle aspirationなどした方が治療期間は短くなるだろう。
◇外科的治療
昔は開頭だったが、 今はガイド下のドレナージに変わってきつつある。
抗菌薬による潅流を勧める人もいたが、最近はよほど大きくて、 培養陽性が続いている
ようなケースでなければいらないだろう。
脳室内穿破は死亡率が高い。
◇Adjunctive therapy
抗浮腫目的のステロイド:やって悪くはなさそう
●Special clinical situations
小腦と脳幹の膿瘍
小脳の膿瘍は中耳炎、乳突蜂巣炎からの波及が多い。
小児の中耳炎がちゃんと治療されるようになって減ってきた。
脳幹は結核、Listeriaのこともある。
CTでは脳幹や小脳はみにくいのでMRIがよい。
外傷後の脳膿瘍
主に開放骨折の人におきる。
手術の時に予防抗菌薬(主にS.aureusをカバー) 投与するが、これを長期に投与する根拠はない。
もともと外傷後の脳膿瘍はかなりまれ。
起きるときはかなり時間が経ってから診断がつく(Mean 113 days)。
異物が入っていることが多いので治療が難しい。
小児では鉛筆や木のおもちゃで眼窩の外傷→ 前頭葉の脳膿瘍にいたることがある。
眼窩の上縁は薄くてわりと簡単に貫通するので注意!
S.aureusが多い。
小児の脳膿瘍
脳膿瘍のケースで15歳以下が25% を占めるとするシリーズもある。
耳からの中耳炎は先進国では稀になっている。
副鼻腔炎の合併症としての前頭葉の脳膿瘍はなぜか男子に多い。
脳膿瘍は新生児ではまれ。
真菌による脳膿瘍
免疫不全患者の病気(ステロイド、DMなどなど)
画像では周囲の造影がはっきりしないことが多い
免疫反応が弱いためであると考えられている。
死亡率の高い病態だが、 白血球数が戻ってくれば治療の余地はある。
最も多いのはAspergillus (移植患者、重症免疫不全で) Aspergillusは進行が速い。
CTでは早期に見逃しやすいがMRIでは写る。
治療の第1選択はAmphB(1997年時点では、かな)。 AMPH+5FC or RFPというのも
シナジーがあるので勧められる。
Candidaはふつう髄膜炎脳炎+ 画像にうつらないくらいの微小膿瘍多発というパターンでくる。
大きな膿瘍をつくるのは極めて稀。
ムコールは副鼻腔からの進展した病態の合併症として脳膿瘍をつく る。
治療は外科的切除とAMPHB
結核
脳膿瘍をつくるのはまれだが播種性感染を起こしているときは考え る。
結核腫Tuberculomaは脳膿瘍とは違うものである。
肉芽腫を形成できない免疫不全者に置きやすい病態。 CTではよく似てみえるが膿瘍の場合MRIでは
T2でHighになる。
まれなので治療についてしっかりした推奨はないが、 しっかりした膜をつくっちゃうとドレナージしにくいので
さっさと取ってしまえという意見もある。
筆者はまずAspirationして、 1年以上の抗結核薬の投与を勧めている。 開頭はそれでもよくならない場合に
とっておけと。
ノカルジア
Nocardiaは皮膚、 肺に症状があるときに播種性感染の一環としてでてくることがある 。
免疫不全者の病気と思われるが、50% 以上が特に基礎疾患がない!
症状が出にくいので肺のNocardiaの診断がついたら頭も調 べよう。
スルファジアジンかSTで治療。
動物実験ではIPMを入れた併用療法がよいという話がある。( IPM+ST、IPM+CTX)
大抵の人はST単剤でいいんだろうけど、 免疫不全がベースにあったらIPMかCTXを入れた
併用療法がいいんじゃないかな、と。治療期間は長め。( しかし1年以内)
AIDSの脳膿瘍
原因不明の脳の占拠性病変がある人にはHIVを調べよう。
AIDSで一番多いのはトキソプラズマ。
抗体の結果が返ってくるまではトキソの治療をしてしまって、 もし反応がないとか、
抗体が陰性の場合(それでもトキソの可能性は残るが)、 再評価をする。
寄生虫の脳膿瘍
原虫で一番多いのはトキソ。
アメーバ肝膿瘍に脳膿瘍を合併することもある。
●Outcome
進行が速い人は予後がよろしくない。
口腔内由来の感染→臟噐移植、免疫不全者の病気へ
●Pathophysiology
本来脳は細菌感染には非常に強い。
よって一番脳膿瘍の原因として多いのは近接臓器からの波及。
(中耳炎、副鼻腔炎、歯周病)
もともと脳に器質的なダメージ(梗塞の既往、血腫など)
20-30%
典型的な経過:
最初は脳炎Cerebritis(
その後2週間程度でカプセルの形成にいたる。
Clinical presentation
頭痛がもっとも多い。激しい頭痛や突発した頭痛はまれで、
その場合は合併した髄膜炎やクモ膜下出血のことがある。
発熱はこれまでのケースシリーズによれば<50% !
熱がないからといって除外してはいけない。
巣症状がでるのは3分の1から2分の1.
血液検査にも特異的なものはない。
●画像
CT
初期ではCerebritisの部分はLowにみえる。
周囲がエンハンスされていると古典的な脳膿瘍の所見だが、
撮りなおすと中心部分がきちんと造影されていることがあって、
メタとの区別はよく問題になる。
しかしまったくもってよく似た所見になることもしばしば。
(著者も多発メタとして放射線してみたが、
MRI
CTよりも軟部の描出にはすぐれる。
ステージング(膿がたまって刺し時かどうか)
1-
AIDSの患者ではSPECTを用いるとリンパ腫とトキソプラズ
●Therapy
◇抗菌薬
しばしばPolymicrobialである。
これまでのケースシリーズで多いのはViridansと嫌気性菌
あとはソースによるがS.aureusと腸内のGNR
ソースによって抗菌薬の初期治療を選ぶ。
副鼻腔と歯科関連由来の場合はPCG+
人によっては第3世代セフェムもかぶせる。
中耳由来の場合はP.
これらの病原体がついていることも多い。
抗菌薬の髄液移行はでーたがあるが、
データはほとんどない。
BBBと血液-髄液関門は別物なので、
データは少ない話であるが、、
PCGは髄液移行は大してよくないが、
合成ペニシリンの濃度は様々なようだが、
第1世代セフェムは髄液に移行しないので使用はダメ。
バンコマイシンは髄液移行が悪いが、
ただし炎症があったからという話もあるが、使う根拠にはなる。
メトロニダゾールは嫌気性菌に効果が強いし、薬物動態もよいし、
ただしStreptococcusには聞かないのでβラクタムと
第3世代セフェムはこの時点では期待できるという記載のかんじ。
髄膜炎の治療ではかなりよい。
Moxalactam(シオマリン)
フルマリンは?書いてない・・・
ユナシンは11人を治療したというケースシリーズがある。
膿瘍中の濃度はばらばらだったが概ねよかったよう。
Akova M, Akalìn HE, Korten V, Ozgen T, Erbengi A.
Treatment of intracranial abscesses: experience with sulbactam/ampicillin.
J Chemother. 1993;5(3):181-185.
(アブストをみてみるとアンピシリンが100mg・kg qidとあるので結構な量を積んでの話のようだ)
カルバペネムは耐性菌にとっておいた方がよいだろう。
キノロンは中枢神経移行はよい。
したという報告もある。痙攣には注意。
治療期間は古典的には6~8週間の点滴投与。
3週間程度の点滴でいいという報告もある。
大きさなどケースバイケースだが・・ここではやっぱり6~
根拠ははっきりないが、多くの医師は点滴投与終了後2~
手術がどうしてもできない場合2cm以下の膿瘍であれば、
しかしこの場合は3ヶ月以上の点滴抗菌薬をすることになる。
最終的にはNeedle aspirationなどした方が治療期間は短くなるだろう。
◇外科的治療
昔は開頭だったが、
抗菌薬による潅流を勧める人もいたが、最近はよほど大きくて、
ようなケースでなければいらないだろう。
脳室内穿破は死亡率が高い。
◇Adjunctive therapy
抗浮腫目的のステロイド:やって悪くはなさそう
●Special clinical situations
小腦と脳幹の膿瘍
小脳の膿瘍は中耳炎、乳突蜂巣炎からの波及が多い。
小児の中耳炎がちゃんと治療されるようになって減ってきた。
脳幹は結核、Listeriaのこともある。
CTでは脳幹や小脳はみにくいのでMRIがよい。
外傷後の脳膿瘍
主に開放骨折の人におきる。
手術の時に予防抗菌薬(主にS.aureusをカバー)
もともと外傷後の脳膿瘍はかなりまれ。
起きるときはかなり時間が経ってから診断がつく(Mean 113 days)。
異物が入っていることが多いので治療が難しい。
小児では鉛筆や木のおもちゃで眼窩の外傷→
眼窩の上縁は薄くてわりと簡単に貫通するので注意!
S.aureusが多い。
小児の脳膿瘍
脳膿瘍のケースで15歳以下が25%
耳からの中耳炎は先進国では稀になっている。
副鼻腔炎の合併症としての前頭葉の脳膿瘍はなぜか男子に多い。
脳膿瘍は新生児ではまれ。
真菌による脳膿瘍
免疫不全患者の病気(ステロイド、DMなどなど)
画像では周囲の造影がはっきりしないことが多い
免疫反応が弱いためであると考えられている。
死亡率の高い病態だが、
最も多いのはAspergillus (移植患者、重症免疫不全で) Aspergillusは進行が速い。
CTでは早期に見逃しやすいがMRIでは写る。
治療の第1選択はAmphB(1997年時点では、かな)。
シナジーがあるので勧められる。
Candidaはふつう髄膜炎脳炎+
大きな膿瘍をつくるのは極めて稀。
ムコールは副鼻腔からの進展した病態の合併症として脳膿瘍をつく
治療は外科的切除とAMPHB
結核
脳膿瘍をつくるのはまれだが播種性感染を起こしているときは考え
結核腫Tuberculomaは脳膿瘍とは違うものである。
肉芽腫を形成できない免疫不全者に置きやすい病態。
T2でHighになる。
まれなので治療についてしっかりした推奨はないが、
さっさと取ってしまえという意見もある。
筆者はまずAspirationして、
とっておけと。
ノカルジア
Nocardiaは皮膚、
免疫不全者の病気と思われるが、50%
症状が出にくいので肺のNocardiaの診断がついたら頭も調
スルファジアジンかSTで治療。
動物実験ではIPMを入れた併用療法がよいという話がある。(
大抵の人はST単剤でいいんだろうけど、
併用療法がいいんじゃないかな、と。治療期間は長め。(
AIDSの脳膿瘍
原因不明の脳の占拠性病変がある人にはHIVを調べよう。
AIDSで一番多いのはトキソプラズマ。
抗体の結果が返ってくるまではトキソの治療をしてしまって、
抗体が陰性の場合(それでもトキソの可能性は残るが)、
寄生虫の脳膿瘍
原虫で一番多いのはトキソ。
アメーバ肝膿瘍に脳膿瘍を合併することもある。
●Outcome
進行が速い人は予後がよろしくない。
« Non-HACEK GNRのIE | トップページ | セファロスポリン感受性で帰ってくるESBL産生菌 »
「感染症科」カテゴリの記事
- Clinical practice guideline for the management of candidasis:2016(2016.02.16)
- クラリスロマイシンと心血管イベント(2016.02.02)
- AHA IE guideline 2015 update その2 Staphylococcus編(2015.12.01)
- AHA IE guideline 2015 update その1 総論 Streptococcus(2015.11.29)
- 椎体炎のIDSAガイドライン(2015.08.10)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント