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2016年2月23日 (火)

Clinical practice guideline for the management of candidasis 2016 その3

カンジダのガイドライン。続いて慢性播種性カンジダ症、腹膜炎、血管内感染症です。
(ICU、新生児関連はスキップしてます、あしからず]
青字は管理人のコメントです。

Ⅳ. 播種性カンジダ症(Hepatosplenic candidiasis)の治療は?

24. 脂質製剤アムホテリシンB(1日1回3-5mg/kg) か、エキノキャンディン[カスポファンギン:ローディング70 mgその後、1日50mg、ミカファンギン:1日100mg、アニデュラファンギン:ローディング200 mgその後1日100 mg] による数週間の治療を推奨。その後経口フルコナゾール400mg(6mg/kg) に変更する。(フルコナゾール耐性株の可能性が低い場合)
(強い推薦、質の低いエビデンス)

25. 画像評価を繰り返して改善がみられるまで治療を継続するべきである。通常は数ヶ月を要する。治療の早期中止は再発の可能性がある。
(強い推薦、質の低いエビデンス)

26. 化学療法や造血幹細胞移植が必要な場合に、慢性播種性カンジダ症があることを理由に遅らせるべきではない。再発予防のためハイリスクの期間を通じて治療は継続する。
(強い推薦、質の低いエビデンス)

27. 発熱が持続して衰弱している患者に対して、短期間(1-2週間)のNSAIDsかステロイドの投与も考慮される。
(弱い推薦、質の低いエビデンス)
慢性播種性カンジダ症の症状は免疫再構築の要素もありそうだ、とわかってきているそうです。ステロイドの投与量は経口プレドニゾロンで0.5-1mg/kgと記載がありました

Ⅷ. 腹腔内カンジダ症の治療は?
大抵の腹腔内感染症ではカンジダのカバーは不要ですが、二次性を超えて三次性腹膜炎になってくると関与することが多くなってきます。といってもカンジダの関与を証明するのは難しい。

54. 最近の手術、吻合部のリーク、壊死性膵炎といったカンジダ症のリスクを有する患者での腹腔内感染症ではカンジダに対する経験的な治療も考慮すべきである。
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)

55. カンジダ腹膜炎の治療はドレナージとデブリによるソースコントロールである。
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)

56. 治療薬の選択はカンジダ血症か非好中球減少状態のICU患者に対する経験的治療と同じである。
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)

57. 治療期間はソースコントロールがどれくらいできたかと、治療に対する臨床的な反応があったかで検討する。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

Ⅸ.気道検体からのカンジダの検出に対して治療は必要か?

58. 気道分泌物の検体からカンジダが検出されても抗真菌薬による治療が必要なことはほとんどない。
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)
わりと相談されることが多い。肺炎の治りが悪いなーといって喀痰培養を繰り返すとよくカンジダばっかりが生えてくるようになります。基本、喀痰培養からのカンジダは無視で。これは強調したい。

Ⅹ.カンジダによる血管内感染の治療は?
自然弁の心内膜炎に対する治療は?

59. 自然弁の心内膜炎に対しては、脂質製剤のアムホテリシンB(1日1回3-5mg/kg) (±フルシトシン 25mg/kg 1日4回)、または高容量のエキノキャンディン[カスポファンギン:1日150mg、ミカファンギン:1日150mg、アニデュラファンギン:1日200 mg] を初期治療として推奨。
(強い推奨、質の低いエビデンス)
キャンディン系は量を増やして投与した方がいいだろう、というのは主にエキスパートオピニオンのよう。

60. 感受性のある種が検出され、臨床的に安定し、血培が陰性化した場合はフルコナゾール[400–800 mg (6–12 mg/kg)]へのステップダウン治療も推奨。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

61. ボリコナゾール[ 200–300 mg (3–4 mg/kg) 1日2回]、またはポサコナゾール錠(1日300mg)もフルコナゾール耐性でこれらの薬剤に感受性の場合はステップダウン治療として使用可能である。
(弱い推薦、非常に質の低いエビデンス)

62. 弁置換術を推奨。術後も最低6週間は治療を継続するべきである。
(強い推奨、質の低いエビデンス)
AHAのIEのガイドラインの方でも手術が推奨されています。

63. 弁置換術ができない患者では、感受性の株であればフルコナゾール[1日400-800mg(6–12 mg/kg)]による長期抑制も推奨される。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

64. 人工弁の心内膜炎に対しては、治療レジメンは自然弁と同様。
(強い推奨、質の低いエビデンス)
再発予防にフルコナゾール[1日400-800mg(6–12 mg/kg)]による長期抑制も推奨される。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

埋込み型心臓デバイス感染に対する治療は?
65. ペースメーカーおよび植込み型除細動器の感染ではデバイス全体の除去が必要である。
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)
カンジダに限った話じゃないですが。

66. 抗真菌薬の選択は自然弁の心内膜炎と同様である。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

67. ジェネレーターのポケットに限局した感染症では、デバイス除去から4週間の抗真菌薬投与を推奨。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

68. ワイヤも巻き込んだ感染症の場合はワイヤの除去か最低6週間の抗真菌薬投与を推奨。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

69. 除去できない補助人工心臓に対しては、抗真菌薬の選択は自然弁の心内膜炎と同様である。
(強い推奨、質の低いエビデンス)
感受性のある株であればフルコナゾールによる長期抑制治療もデバイスが留置されている間推奨する。
(強い推奨、質の低いエビデンス)


カンジダによる血栓性静脈炎に対する治療は?
70. カテーテルの抜去と切開排膿、または可能であれば静脈の切除を推奨。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

71. 脂質製剤のアムホテリシンB(1日3-5mg/kg)、フルコナゾール[400–800 mg (6–12 mg/kg)] 、またはエキノキャンディン[カスポファンギン:1日150mg、ミカファンギン:1日150mg、アニデュラファンギン:1日200 mg ]の血培陰性化後2週間の投与を推奨。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

72. 脂質製剤のアムホテリシンBかエキノキャンディンでの初期治療で効果が得られ、フルコナゾール感受性株が検出されたらフルコナゾールへのステップダウン治療も考慮すべきである。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

73. 臨床データと培養結果と一致するなら、血栓の消失を治療修了の目安としてもよい。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

2016年2月17日 (水)

Clinical practice guideline for the management of candidasis:2016 その2

カンジダのガイドラインの続き。次は好中球減少状態でのカンジダ血症です。

Ⅲ. 好中球減少状態でのカンジダ血症の治療は?

14. エキノキャンディンを初期治療として推奨する。
[カスポファンギン:ローディング70 mgその後、1日50mg、ミカファンギン:1日100mg、アニデュラファンギン:ローディング100 mgその後1日200 mg]
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)

15. 脂質製剤アムホテリシンB(AmB)(1日1回3-5mg/kg)は効果は得られる代替薬ではあるが、毒性があるためやや劣る選択肢である。
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)
歴史的には好中球減少状態でのカンジダ血症はアムホテリシンBで治療されていましたが、キャンディン系の台頭で役割をゆずった、という感じですね。

16. 重篤な状態でなく、アゾールの曝露のない患者ではフルコナゾール[800 mg(12mg/kg)ローディングの後400mg(6mg/kg)1日1回] も代替薬である。
(弱い推奨、質の低いエビデンス)

17. 好中球減少が続いている患者でフルコナゾール感受性の株が検出され、血培が陰性化したら、step-down therapy としてフルコナゾール[400 mg (6 mg/kg)1日1回] に変更してもよい。
(弱い推奨、質の低いエビデンス)
予防投与をのぞけばフルコナゾールの役割はステップダウン治療に縮小してきています

18. 糸状菌のカバーも追加で必要な場合はボリコナゾール[400mg(6mg/kg)1日2回を2回投与後200mg(3mg / kg)を1日2回] も使用可能である。
(弱い推奨、質の低いエビデンス)
ボリコナゾールは血培が陰性化して安定している患者のボリコナゾール感受性株に対するStep down therapyとしても使用可能である。
(弱い推奨、質の低いエビデンス)

19. C. kruseiによる感染症の場合は、エキノキャンディン、脂質製剤アムホテリシンB、ボリコナゾールのいずれかを推奨。
(強い推奨、質の低いエビデンス)
C. kruseiはフルコナゾールに耐性だけどボリコナゾールには感受性のことが多い。
そういえば2009年版のガイドラインにはカンジダの種ごとの感受性パターンが表になっていて便利だったんですが、2016年版ではなくなっています。かわりにブレイクポイントが表になっています。カンジダも感受性を個別に測定する時代だということでしょうか。元々はカンジダは種がわかれば感受性は予測できるのですが、少しずつ耐性が問題になりつつあるようです。日本医真菌学会のガイドラインでも同じような指摘がされています。

20. 明らかな転移性合併症のないカンジダ血症の治療の推奨期間は、カンジダ血症による症状が消失して好中球減少が改善していれば、カンジダが血液培養から陰性化してから2週間である。
(強い推奨、質の低いエビデンス)
好中球が回復していない場合は?生着までは続けましょう、と本文にはありました。

21. 脈絡膜と硝子体の感染の所見は好中球減少状態ではほとんどみられない。故に散瞳を伴う眼底診察は好中球回復から1週間以内に行うべきである。
(強い推奨、質の低いエビデンス)

22. 好中球減少患者ではカンジダ血症の原因としてCVCs以外が優位である(腸管など)。カテーテル抜去の適応は個別に判断するべきである。
(強い推奨、質の低いエビデンス)
薬剤の選択は好中球減少状態と非好中球減少状態でさしてかわらないのですが、カテーテルの扱いが好中球減少状態と非好中球減少状態で少し違います。そもそもカンジダ血症の侵入門戸は皮膚なのか?腸管なのか?というのはよくわかっていません。早期に抜去しても予後の改善がなかったという報告もあり、抜くかどうかは個別に判断せよ、ということになっています。

23. カンジダ血症が持続して、好中球減少状態の長期化が予測される場合は、G-CSFで動員した顆粒球輸血も考慮される。
(弱い推奨、質の低いエビデンス)

2016年2月16日 (火)

Clinical practice guideline for the management of candidasis:2016

カンジダ症のガイドラインの2016年Updateを読んでいます。      
17のClinical questionに答える形で推奨事項が140ほどあって、全部読むのは大変なので興味のあるところをピックアップして訳します。      
最初はカンジダ血症についてです。好中球減少状態とそうでない状態で推奨がわかれています。こちらのGLもGRADE systemでつくられています。

 

青字は管理人のコメントです。投与量などは気をつけて訳しているつもりですが、訳が間違っている可能性もあります。必要に応じて原典、添付文書にあたるようにしてください。

 

Pappas PG, Kauffman CA, Andes DR, Clancy CJ, Marr KA, Ostrosky-Zeichner L, et al. Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2015 Dec 16;civ933.

 

Ⅰ 非好中球減少状態の患者のカンジダ血症の治療は?      
推奨
      
1. エキノキャンディンを初期治療として推奨する。       
[カスポファンギン:ローディング70 mgその後、1日50mg、ミカファンギン:1日100mg、アニデュラファンギン:ローディング200 mgその後1日100 mg]
      
(強い推奨、質の高いエビデンス)      
安全性の高さと効果からキャンディン系が第一選択として推奨されています。      
移行性の問題からキャンディン系が使わない方がよいといわれるのはどこか?         
答は「
眼、中枢神経、尿路です。回診で後輩をいじるネタにどうぞ。

   

2. 重篤な状態ではなく、フルコナゾール耐性カンジダが検出される可能性が低い患者では 静脈内または経口フルコナゾール[800 mg(12mg/kg)ローディング後 400mg(6mg/kg)1日1回] もエキノキャンディンの代替薬として許容される

 

3. アゾール系の感受性試験はすべての血流感染症と、他の臨床的に重要なカンジダの分離株で推奨される。       
エキノキャンディン感受性試験は、エキノキャンディンでの治療歴がある患者、C. glabrataまたはC. parapsilosisによる感染症の患者では考慮すべきである。         
(強い推薦、質の低いエビデンス)       
C. parapsilosisはキャンディン系に対するMICが高めだから、フルコナゾールの方がよいのでは、という話がありましたが、臨床的には治療失敗は確認されていないという報告がありました。

 

4. エキノキャンディンからフルコナゾールへの変更は以下の場合に推奨。(通常は5-7日以内)       
患者が安定していて、フルコナゾール感受性カンジダ(例:C. albicans)による感染症で、抗真菌薬開始後の繰り返した血液培養が陰性化している場合         
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)。       
真菌症であまりDe-escalationというのは意識されませんが、”Step down therapy”として「点滴エキノキャンディン→5-7日で安定してたら内服アゾール」という流れが推奨されています。エキノキャンディンで治療完遂するのと安定したらアゾール内服に変更するのとでアウトカムに差はなし、とする報告があったからのようです。この報告ではアニデュラファンギンのようですが、キャンディン系はだいたいデータを読み替えることが多いので、ミカファンギンでもよいということかな。

 

5. C. glabrataによる感染症の場合は、フルコナゾールとボリコナゾールに感受性の株であれば、高用量フルコナゾール800mg1日1回(12mg/kg)か、ボリコナゾール200-300(3-4mg/kg)1日2回への変更のみ検討してもよい。      
(強い推奨、質の低いエビデンス)
      
C. glabrataとC. kruseiはアゾールに比較的耐性。 

 

6. 脂質製剤アムホテリシンB(AmB)(1日1回3-5mg/kg)は他の薬剤が副作用で使えない場合、他の薬剤が手に入らない場合、他の薬剤に耐性がある場合は代替薬として妥当である。       
(強い推奨、質の高いエビデンス)       
AmBは副作用を考えるとカンジダ血症では第一選択ではありませんが、出番はあります。      
ちなみにカンジダ血症の治療にはイトラコナゾールの出番はありません。

 

7. AmBからフルコナゾールへの変更は以下の場合に推奨。(通常5-7日以内)       
患者が安定していて、フルコナゾール感受性カンジダによる感染症で、抗真菌薬開始後の繰り返した血液培養が陰性化している場合。       
(強い推奨、質の高いエビデンス)         
こちらもStep down therapyの話。

 

8. アゾール系とエキノキャンディンに耐性のカンジダによる感染症が疑われる場合は、脂質製剤のAmB(1日3-5mg/kg)を推奨する。       
(強い推薦、質の低いエビデンス)

 

9. ボリコナゾール[400mg(6mg/kg)1日2回を2回投与後 200mg(3mg / kg)を1日2回]はカンジダ血症に有効であるが、初期治療としてはフルコナゾールを超える有利な点はごくわずかである。       
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)         
投与回数は多いし、体内動態のバラ付きが大きいし、相互作用が多くて、認容性が劣る、と本文にはあります。      
C. kruseiによる真菌血症の患者では状態が許せば経口にステップダウンする場合にボリコナゾールが推奨される。       
(強い推薦、質の低いエビデンス)       
C. krusei、C. guilliermondiiはフルコナゾール耐性、ボリコナゾール感受性。

 

10.好中球減少状態でないカンジダ血症の患者は診断から1週間以内に散瞳を伴う眼科診察を受けるべきである。できれば眼科医によるものが望ましい。       
(強い推薦、質の低いエビデンス)       
患者さんのリスクを層別化すれば全員じゃなくてもいいんじゃない?という意見もありますが、早期発見による失明の予防の重要さを考えるとやはり全例での診察を推奨する、だそうです。

 

11.フォローの血液培養はカンジダが陰性化された時点を確立するために、毎日または隔日に行うべきである。       
(強い推薦、質の低いエビデンス)       
S. aureusとカンジダは必ず血培をフォローして陰性化を確認です。

 

12.明らかな転移性合併症のないカンジダ血症の治療の推奨期間は、カンジダ血症による症状が消失して、カンジダが血液培養から陰性化してから2週間である。       
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)       
今のところ短縮して大丈夫というデータはなく、これがスタンダードの治療です。      
状態がゆるせば点滴から内服への変更はありだろう、というのは上述の通り。

 

 

Ⅱ 非好中球減少状態の患者のカンジダ血症では中心静脈ラインを抜去すべきか? 

 

13.カンジダ血症で中心静脈カテーテル(CVCs)が感染源と考えられ、安全に抜去できる場合は、できるだけ早期に抜去すべきである。      
(強い推奨、中等度の質のエビデンス)      
カンジダ血症の原因のほとんどはCVCs なので、バイオフィルムを除去する意味で抜去が重要です。とはいえカンジダ血症は腹腔内を原因で起きることもあります。残念ながらCVCs由来と腹腔内由来を区別することはできないので、全例抜去を推奨ということになっています。      
なおC. parapsilosisだけは非常に高率にCVCsと関連していて、早期の抜去のメリットがはっきりしています。       
C. parapsilosisはバイオフィルム産生能力が高くて環境表面や皮膚に付着しやすいようです。

2016年2月 2日 (火)

クラリスロマイシンと心血管イベント

クラリスロマイシンが短期的な心血管イベントのリスク上昇に関連しているという香港からの報告です。
アジスロマイシンについても心血管死亡リスクの上昇が2012年に報告されています

その後も似たような報告をいくつか見た記憶があるので、これが何件目なのか覚えていませんが…
日本でも外来でクラリスロマイシンは大変多く処方されています
風邪薬がわりに気軽に抗菌薬を処方することの隠れた危険性を指し示す結果です。

 

Wong AYS, Root A, Douglas IJ, Chui CSL, Chan EW, Ghebremichael-Weldeselassie Y, et al. Cardiovascular outcomes associated with use of clarithromycin: population based study. BMJ. 2016 Jan 14;352:h6926.

問題点
クラリスロマイシンの使用と心血管アウトカムとの間の関連性はどのようなものか?

方法
このPopulation based studyでは香港で2005年-2009の間に経口クラリスロマイシンまたはアモキシシリンを投与された18歳以上の成人の心血管アウトカムを比較した。 研究期間の5年間のクラリスロマイシンの投与を受けた患者の年齢、 性別、暦年に応じて1人または2人のアモキシシリン投与患者にマッチさせた。コホート分析の内訳はクラリスロマイシン(N = 108 988)、アモキシシリン(N = 217 793)であった。自己対照ケースシリーズとケースクロスオーバー解析には、クラリスロマイシンを含むヘリコバクター・ピロリ除菌治療を受けた患者も含まれていた。主要アウトカムは心筋梗塞。二次的アウトカムは、すべての原因による死亡率、心疾患による死亡率、非心臓疾患の死亡率、不整脈、および脳卒中。

結果とLimitation
傾向スコアで調整した死亡率の比は、抗菌薬開始から14日以内の心筋梗塞で3.66だった。(95%CI 2.82-4.76)クラリスロマイシンでは132イベント[1000人年あたりの率44.4]、アモキシシリンでは149イベント[1000人年あたりの率19.2]だった。長期的リスクの増加は認められなかった。同様に、二次アウトカムのrate ratioは、脳卒中を除き、アモキシシリンの使用に対してクラリスロマイシンの現在の使用により有意に増加していた。自己対照ケースシリーズ では、クラリスロマイシンを含むピロリ除菌治療と心血管イベントの関連があった。治療が終了後にリスクがベースラインに戻った。クロスオーバー解析もクラリスロマイシンを含むピロリ除菌治療の使用中の心血管イベントのリスクの増加を示した。アモキシシリンに対するクラリスロマイシンの調整した絶対リスク差は、1年間に1000患者あたり1.90件の心筋梗塞イベントの過剰(95%CI1.30-2.68)であった。

この研究での新しい知見
クラリスロマイシンの使用は香港人の集団で、心筋梗塞、不整脈、心臓死亡の短期リスク上昇と関連していた。しかし長期の心血管リスク上昇とは関連していなかった。

2016年1月27日 (水)

関取と筋肉

突然ですが、大相撲観戦が趣味です。
先日の2016年初場所では御嶽海、安美錦といった幕内の力士がインフルエンザで休場しました。
先日の記事にもあるように、インフルエンザウイルスは症状が出ている間は排泄されていますので、休場期間が2日程度で再出場してきたのは大丈夫だったのかちょっと不安になりました。

さて相撲についてどれくらい研究が発表されているのだろう、と興味をもちPubmedで”Sumo wrestler”を検索したところ、面白い論文を発見しました。力士と大学生の体組成の比較、さらに力士の体組成を番付で比較した研究です。

すべての力士をあわせて36人なので、なんともいえませんが、十両以上に上がろうと思うと、やはり筋肉量が必要ということを示唆しています。太ってるだけじゃだめなんです。 新入幕で負け越した輝のことを指してNHK解説の北の富士勝昭さんが「まだ子どもの体だ」と言っていましたが、まだ体格の割に筋肉量が足りないということを相撲人的な言葉で表現したのでしょうか。よく稽古して体を強くして出なおしてほしいものです。 この研究の発表は1999年なので、さらに大型化が進んだ近年の角界でのデータが気になるところですね。

Hattori, K., et al. "Hierarchical differences in body composition of professional Sumo wrestlers." Annals of human biology 26.2 (1999): 179-184.

36人のプロの力士と39人の男子大学生の体組成を、デンシトメトリー法で評価した。力士は平均で体重117.1キロ 、BMI36.5と体脂肪率26.2%で訓練を受けていない男性と比較して非常に大きかった。(P <0.001) 力士の番付で分類した分散分析の結果、体重、除脂肪量、脂肪量、BMI、除脂肪量指数(fat-free mass index :FFM /身長2)と脂肪量指数(fat mass index :FM /身長2)に有意差がみられた。体組成の階層的な違いを視覚的に表現するために、力士の脂肪量指数および除脂肪量指数は、身体組成のグラフにプロットした。 関取(十両以上)は、幕下以下の力士に比べて著しく大きい除脂肪量指数を有した。他の力士から関取を区別する除脂肪量指数はカットオフは約30であった。この値は力士が十両以上に昇進できるかどうかの身体計測指標の一つかもしれない。

2016年1月26日 (火)

インフルエンザ感染の臨床症状とウイルス排泄

ちょうどインフルエンザ流行のシーズンなので、インフルエンザの話題です。
Clinical infectious diseaseに自然感染したインフルエンザの症状とウイルス排泄に関する香港で行われた研究の論文がでていました。
ボランティアにウイルスを投与して経過を報告したものが多い中、自然感染の患者さんを発症前からフォローした、という興味深い論文です。A型は症状とかなり一致していた一方で、B型は発症2日前くらいからウイルスがでていて、かつ改善してからもでているかも、と。
自分がウイルスを排出しているかどうかを病院で調べることは普通できませんので、感染対策で大事なのは咳エチケットですね。

Ip DKM, Lau LLH, Chan K-H, Fang VJ, Leung GM, Peiris MJS, et al.
The Dynamic Relationship Between Clinical Symptomatology and Viral Shedding in Naturally Acquired Seasonal and Pandemic Influenza Virus Infections.
Clin Infect Dis. 2016 Feb 15;62(4):431–7.

背景

ボランティアにウイルスを投与した経時的なウイルス排出のパターンは報告されているが、自然に獲得したインフルエンザ感染における臨床症状とウイルス排出の関係についての知見は限られている。

方法

2008年から2014年に香港で行われたコミュニティベースの研究。健常人をフォローし、家庭内でインフルエンザウイルスに二次感染した224例を同定した。

臨床症状とウイルス排出のパターンとの間の動的な関係をRT-PCR用いて定量化して調べ、急性呼吸器感染症の臨床像を呈した127例では ウイルス培養も使用した。

結果

A型インフルエンザウイルス感染症におけるウイルス排出は、臨床症状の最初の1-2日にピークに達した後、徐々に減少し6-7日目までに検出不能なレベルになり、臨床症状の動態と密接に一致していた。

B型インフルエンザウイルス感染症におけるウイルス排出は、症状の発現の2日前​までに上昇し、二峰性のパターンで示した後、発症後6-7日間持続した。

結論

臨床的な症状はA型インフルエンザウイルス感染での感染性の代理として役に立つ一方で、B型インフルエンザウイルス感染症においては発症前または臨床的改善後であっても感染性がありうることが示唆された。

2016年1月20日 (水)

AHA IE Guideline update 2015 その6(最後) 合併症のマネジメント

AHAの心内膜炎のガイドライン抄訳第6弾は手術編です。青字は管理人のコメントです。ようやく最後までたどり着きました。

◇塞栓症のリスク
IEでは脳、肺などによく塞栓がみられます。時々塞栓が先に見つかって後からIEの診断がついたりしますが。
塞栓のリスクは治療開始後2週間を経過すると下がると言われています。もし塞栓をふせぐために手術するのであれば、出来る限り早期の方がメリットがあるだろうと記載がありました。
IEの患者さんで脳MRIを撮影すると無症候性のものも含めて高率に脳梗塞の所見が見つかります。では全例にMRIを撮影すべきなのか?という疑問がでてきますが、手術をする患者では撮影してはどうか、という意見もあるようです。しかし見つかった所見によってどう判断を変えるかというところは一定の見解はありません。

◆抗凝固療法
1. 人工弁の心内膜炎の患者が中枢神経系の塞栓を合併した場合は、最低2週間すべての抗凝固治療を中止するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).

2. 心内膜炎の治療にアスピリンや他の抗血小板剤を追加するのは推奨しない。(Class III; Level of Evidence B).

3. 出血性の合併症がなければ、心内膜炎発症時点で使用していた抗血小板薬は継続を検討してもよい。(Class IIb; Level of Evidence B).

◇弁輪周囲への感染の波及
1. 弁輪周囲への感染の波及が疑われる場合の初期評価には経食道心エコーを推奨する。(Class I; Level of Evidence B).

◇転移性病巣
1. 画像検査の方法(CT、MRI、超音波)を用いるかは患者ごとに個別化する。
(Class I; Level of Evidence C).

◇細菌性動脈瘤
◆頭蓋内細菌性動脈瘤
1. 心内膜炎か隣接する感染症がある患者はに激しい局在性の頭痛、神経学的脱落徴候、髄膜刺激徴候が出現した場合は、頭蓋内の細菌性動脈瘤か出血を検索するための画像検査を行うべきである。(Class I; Level of Evidence B).

2. 左心系心内膜炎であれば中神経症状がなくても脳血管の画像検査を考慮してもいいかもしれない。(Class IIb; Level of Evidence C).

3. CTアンギオ、MRアンギオ、digital subtraction angiography(DSA)が細菌性脳動脈瘤の初期評価の方法としては妥当である。(Class IIa, Level of Evidence B).

4. CTアンギオ、MRアンギオ、DSAで陰性の場合、古典的な血管造影も細菌性脳動脈瘤の検出には妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).

◆頭蓋外細菌性動脈瘤
1. 心内膜炎の患者は外来治療を考慮する前に入院の上、評価と安定するまでの治療を行うべきである。 (Class I; Level of Evidence C).

2. 外来抗菌薬点滴治療(OPAT)の対象患者は心内膜炎の合併症のリスクが低い患者にすべきである。最も多い合併症は心不全と塞栓症である。(Class I; Level of Evidence C).

◇抗菌薬治療終了後のケア

◆短期的フォロー
1. 治療完遂前か治療完遂時に心エコーを行ってその後の合併症の出現の基準にするのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).

2. IDUに対しては薬物依存治療プログラムへの紹介をする。(Class I; Level of Evidence C).

3. 患者さんには心内膜炎の徴候と、緊急で受診すべき症状について教育する。(Class I; Level of Evidence C).

4. 綿密な歯科の評価が妥当である。特に弁置換が必要な場合には口腔内感染症の活動性の病巣はすべて除去する。

5. 抗菌薬治療完了後のルーチンの血液培養は推奨しない。理由は明らかな感染症の徴候がない患者では陽性になる可能性は低いからである。(Class III; Level of Evidence C).
6. 抗菌薬投与に使用したカテーテルは終了後に速やかに抜去すべきである。(Class I; Level of Evidence C).

7. 長期間のアミノグリコシド投与をする場合は、特に基礎に腎障害や聴力障害があった患者では、治療中の定期的な聴力検査を考慮する。(Class  IIb;  Level  of Evidence C).

8. 短期フォローアップでは心内膜炎の再燃や心不全などの合併症がないかをモニターする。(Class I; Level of Evidence C).

9. 患者さんには再発が起こりうること、新たな発熱、悪寒戦慄などの全身の症状がみられた場合は迅速に病歴聴取、身体診察、3セット以上の血液培養が必要になることを理解してもらわねばならない。(Class I;Level of Evidence C).

10. IEの再発が懸念されるので、感染症の症状と徴候の原因を決定するために徹底的に評価しなければならない。(Class I; Level of Evidence C).

11. 患者の状態が敗血症などで抗菌薬投与がどうしても必要な状態でなければ、経験的な抗菌薬投与は控えるべきである。(Class III;Level of Evidence C).

12. 治療を完遂して全身の症状もない患者が抗菌薬投与終了後に検査を受けるのは妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).

13. 心不全の発症や悪化は治療後早期のフォローアップ中もモニターしなければならない。(Class I; Level of Evidence C).

14. もし心不全が出現あるいは悪化したら、心臓手術のために迅速に評価をしなければならない。(Class I; Level of Evidence B).

15. 抗菌薬による毒性は治療完遂後も発症しうるので、治療後早期のフォローアップでも考慮しなければならない。

(Class I; Level of Evidence C).

16. 前庭機能をモニタするツールはないので、治療中や治療後に前庭症状が出た場合は報告するよう患者に教育する。(Class I; Level of Evidence C).

◆長期的フォロー

1. 心内膜炎に対する内科的治療の終了後、数ヶ月から数年の間は感染の再燃と遅発性の弁不全の悪化について観察し、患者を教育しなければならない。(Class I; Level of Evidence C)

2. 日常的な歯の衛生は強化しなければならない。このような患者群を診なれた司会による持続的な評価が望ましい。(Class I; Level of Evidence C).

3. 心不全の症状について問診し、詳細な身体診察を行わねばならない。(Class I; Level of Evidence C).

4. 病歴聴取と身体診察で疑わしい所見があった患者では追加で心エコーによる評価を行うべきである。(Class I; Level of Evidence C).

5. 発熱があった場合は受診するよう患者に指示し、血液培養を採取すべきである。(Class I; Level of Evidence C).

6. 患者の状態が敗血症などで抗菌薬投与がどうしても必要な状態でなければ、原因のわからない発熱に対するな抗菌薬投与は控えるべきである。(Class III;Level of Evidence C).

◆歯科治療

1. 心内膜炎で入院中の患者は歯科医の詳細な評価を受けて、菌血症の原因となってIEの再発リスクとなるような口腔内疾患を除外すべきである。(Class I; Level of Evidence C).

2. 歯科診察で注意すべきは歯周炎、歯周囲のポケット形成、歯髄の感染と膿瘍形成の原因となるようなう歯である。(Class I; Level of Evidence C).

3. 口腔内のレントゲン写真で診察ではわからないう歯と歯周病とその他の疾患(歯の破折など)を発見できる可能性がある。歯科治療施設まで移動できる場合は行うべきである。(Class I; Level of Evidence C).

 

2015年12月22日 (火)

AHA IE guideline update 2015 その5 外科手術編

AHAの心内膜炎のガイドライン抄訳第5弾は手術編です。青字は管理人のコメントです。

◇外科的マネジメント
心内膜炎に対する手術といえば2012年に韓国から早期手術のベネフィットを示したRCTがでて話題になりました。本ガイドラインの本文中にもこの論文について言及されていますが、S. aureusの症例が少ないこと、単施設の研究であること、症例数が少ないことなどから確たる結論は導き出せないとしています。
この領域ではRCTを行うのが困難で、観察研究が主体とならざるを得ません。そのためバイアスの排除やリスク因子の調整などが必要になります。今回のガイドライン改訂でも推奨に大きな変化はでていないようです。

◆左心系の自然弁心内膜炎での早期手術
ここでの早期手術(Early surgery)とは「最初の入院中に抗菌薬の全投与期間終了前に行う手術」を指しています。

1. 弁の機能不全で心不全の症状か所見が現れている場合は早期手術の適応である。(Class I; Level of Evidence B).

2. 真菌か高度耐性菌(VRE、MDRのGNR)による心内膜炎の場合は早期手術を検討すべきである。(Class I;Level of Evidence B).

3. 心ブロック、弁輪または大動脈の膿瘍、穿通性の破壊性病変がある場合は早期手術の適応である。 (Class I; Level of Evidence B).

4. 適切な抗菌薬の開始後も感染が持続する場合は早期手術の適応である。(Class I;Level of Evidence B).
感染が持続している状態とは
・持続性の菌血症
・他の部位の感染による発熱が除外されても5-7日の発熱が続いている場合

5. 適切な抗菌薬投与にも関わらず塞栓症が反復したり、疣贅が大きくなってくる場合は早期手術が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).

6. 重症の弁逆流があるか、可動性の10mm以上の大きさの疣贅がある場合は早期手術が妥当である。(Class IIa, Level of Evidence B).

7. 可動性のある10mm以上の疣贅があって、特にそれが僧帽弁の前尖ある場合、他の相対的な手術適応もあれば手術を考慮する。 (Class IIb; Level of Evidence C).

◆人工弁心内膜炎での早期手術
1. 弁の離開、心内の瘻孔、重度の人工弁んの機能不全のために心不全の症状か所見が出現している患者は早期手術の適応である。(Class I; Level of Evidence B)

2. 適切な抗菌薬投与にも関わらず5-7日間血液培養陽性が続いて、他の部位の感染症が除外されている場合は早期手術を行うべきである。(Class I; Level of Evidence B).

3. 心ブロック、弁輪または大動脈の膿瘍、穿通性の破壊性病変がある場合は早期手術の適応である。 (Class I; Level of Evidence B).

4. 真菌か高度耐性菌による人工弁の心内膜炎の場合は早期手術の適応である。(Class I;Level of Evidence B)

5. 適切な抗菌薬投与にも関わらず塞栓症を繰り返す人工弁の心内膜炎では早期手術が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).

6. 再発した人工弁の心内膜炎は早期手術が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).

7. 可動性の10mm以上の疣贅がある場合は早期手術を検討する。(Class  IIb;  Level  of Evidence C).

◆右心系心内膜炎での手術
例によって右心系心内膜炎は米国では静注薬物乱用者(IVDU)が主体なので、その前提の記載です。もともとIVDUの右心系IEは治りやすい、というのとIEの治療が終わっても薬物濫用が続く可能性があるので心臓に異物を残す外科治療は避けた方がよい、というお話。
1. 右心系の心内膜炎ではなんらかの合併症があれば外科治療が妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence C).

2. 可能であれば弁置換よりも弁の修復を行うべきである。(Class I; Level of Evidence C).

3. 弁置換を行う場合は、症例にあわせて外科医が人工物を選択するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).

4. 静注薬物乱用者では可能であれば手術を避けるのが妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence C).

◆脳梗塞/脳出血を合併した患者での弁手術
これは以前から議論されている問題です。脳梗塞を起こした患者さんに心臓外科手術をすると、術中の抗凝固のために出血性梗塞になってしまったり、術中の低血圧で脳梗塞の症状が悪化することがあるので、脳梗塞を合併した場合いつ頃手術をするのがよいのか、というのが議論されてきました。これについてはすでにとある
感染症専門医のブログの過去記事でもまとめられていますので参考にどうぞ。
観察研究の結果から脳梗塞の場合発症から4週間をすぎると術後の死亡リスクが低くなるということが導かれて、4週間という数字の根拠となっています。

1. 脳梗塞か、無症候性の塞栓があり、疣贅が残っている場合、脳出血が画像的に除外されて、神経学的ダメージが重度(昏睡など)でなければ遅らせずに手術を行うことを検討する。(Class IIb; Level of Evidence B).

2. 重度の脳梗塞か脳出血がある場合は最低4週間は手術を遅らせるのが妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence B).

 

次回は合併症のマネジメントについて

2015年12月21日 (月)

AHA IE guideline 2015 update その4 その他の微生物編

AHAの心内膜炎ガイドラインの抄訳。第4弾はその他の微生物です。青字は管理人のコメントです。

◇HACEK群
発育の難しいグラム陰性桿菌の頭文字をとったHACEKです。( Haemophilus  species, Aggregatibacter species, Cardiobacterium hominis, Eikenella corrodens, and Kingella species)

1. 感受性検査を行うのに十分な菌量が得られた場合以外は、HACEK群の微生物はアンピシリン耐性とみなすべきである。ペニシリンとアンピシリンはHACEK群によるIEの治療に用いてはならない。(Class III; Level of Evidence C).

2. HACEK群のIEの治療にはセフトリアキソンを用いるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).

3. 自然弁のHACEKによる心内膜炎の治療期間は4週間が妥当、人工弁の場合は6週間が妥当。(Class IIa; Level of Evidence C).

4. ゲンタマイシンは腎毒性のため推奨しない。(Class III; Level of Evidence C).

5. セフトリアキソン(または他の3-4世代のセファロスポリン系)が使えない場合は、キノロン系(シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン)を代替薬として検討してもよい。(Class IIb; Level of Evidence C).

6. アンピシリンスルバクタムも治療オプションとして考慮される。(Class  IIb;  Level  of Evidence C).

7. HACEK群によるIEの患者でセフトリアキソンが使えない場合は感染症専門医にコンサルトすること。 (Class I; Level of Evidence C).

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◇HACEK以外のグラム陰性桿菌

1. HACEK以外のグラム陰性好気性菌(特に緑膿菌)による心内膜炎に対しては抗菌薬の長期投与と手術を行うのが妥当である。(Class IIb; Level of Evidence B).

2. βラクタム(ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム)とアミノグリコシドかキノロン系を組み合わせて6週間治療するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).
この場合のアミノグリコシドの投与法はどうすべきか?記載はなし。ケースバイケースでしょう。

3. HACEK以外のグラム陰性好気性菌には様々な耐性メカニズムがあるので感染症専門医にコンサルトすべきである。(Class  I;Level of Evidence C).
ESBL、AmpCなど考えるべき耐性がいろいろあります。

 

◇培養陰性の心内膜炎

1. 培養陰性心内膜炎では疫学、心血管感染症の既往、抗菌薬投与歴、臨床経過、重症度、心臓以外の感染症の症状などの病歴を評価する。(Class I; Level of Evidence C).

2. 培養陰性心内膜炎では最も適切な抗菌薬を選択するため感染症専門医へのコンサルトを推奨する。(Class I; Level of Evidence C).

3. 自然弁で急性の経過(日の単位)の場合はS. aureus、β溶連菌、好気性グラム陰性桿菌をカバーするのが妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence C).

4. 自然弁で亜急性の経過(週の単位)の場合はS. aureus、Viridans group streptococcus、HACEK、腸球菌をカバーするのが妥当である。(Class  IIa;  Level  of Evidence C).

5. 人工弁入れ替えから1年の以内の人工弁心内膜炎の場合は、ブドウ球菌、腸球菌、好気性グラム陰性桿菌をカバ-するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).

6. 人工弁入れ替えから1年以上経過した人工弁心内膜炎の場合は、ブドウ球菌、Viridans group streptococcus、腸球菌が原因になることが多くなるので、これらをカバーした治療が妥当である。(Class IIa;

Level of Evidence C).

7. 血液培養か、他の検査法で微生物が明らかとなった場合は、微生物に特異的な治療に変更する。(Class I; Level of Evidence C).

具体的なレジメンの推奨はこちらにはありません。2005年版ではいくつかのレジメンの例が本文中に記載がありましたが。

ちょっと脱線しますが、経験的な治療を考えるときにはヨーロッパのガイドラインを参照していました。今回
ヨーロッパのガイドラインも2015年中にかわっていて見なおしてみましたが、前回の版とは経験的な治療の記載がかわっています。前回は自然弁ではABPC/SBT+GMなどが書いてありましたが、ESCの2015ではABPC+Cloxacillin+GMになっています。これはMSSAに対してはβラクタムがみんな同等というわけではない、という報告をベースにしているようです。この辺は議論がわかれるところです。

◇真菌
カンジダは血培から生えますが、Aspergillusはほとんど生えません。

1. 真菌による心内膜炎では手術を行うべきである。(Class I; Level of Evidence B).
真菌の心内膜炎はそれだけで手術適応( “stand-alone indication”)という記載です。そういう英語表現があるというのが勉強になります。

2. 初期の静注による治療を完了した後、生涯にわたりアゾール系内服薬でサプレッションをかけるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).
アゾール耐性のカンジダだったらどうすんだよ…というところには答は書いていません。たぶん新しくなったカンジダのガイドラインを見ても多分みつからないでしょう。

次回は外科治療について。

2015年12月17日 (木)

AHA IE guideline 2015 update その3 Enterococcus編

ちょっと時間があきましたが、AHAの心内膜炎ガイドラインUpdate Recommendationの訳第3弾、Enterococcusです。   

 

◇Enterococcus   
1. Enterococcusはシナジー作用を予測するためペニシリンとバンコマイシンの感受性を測定し、高濃度ゲンタマイシンの感受性をルーチンに測定すべきである。(Class I;Level of Evidence A).    
基本的なことですが、一応解説すると、Enterococcusのアミノグリコシド感受性をみるときは高濃度でみなくてはいけません。グラム陰性桿菌と同じ濃度で調べると必ず耐性で返ってきます。GMでMIC>500μg/mL、SMでMIC>1000μg/mLで高度耐性です。血液培養から出た腸球菌でもルーチンで高濃度耐性をみる施設はあまりないでしょうから、普通は検査室に特別に依頼する必要があります。    
      
2. βラクタム、バンコマイシン、アミノグリコシドに耐性の株ではダプトマイシンとリネゾリドの感受性を測定すべきである。(Class I;Level of Evidence C).   

 

○腸球菌によるIEの治療におけるアミノグリコシドの役割   
1. Enterococcusの心内膜炎に対し腎機能正常の患者ではゲンタマイシンは1日複数回投与(3mg・kg/日)投与すべきである。(1日1回投与法は用いない) (Class I; Level of Evidence B).    
Streptococcusでは1日1回投与法でしたが、腸球菌では複数回投与法のままです。これは大丈夫というデータがまだ足りないので、というのが理由のよう。   
    
2. ゲンタマイシンは8時間毎に投与し、投与1時間後の血中濃度~3μg/mL、トラフ濃度<1μg/mLとなるように投与量を調節する。(Class IIa; Level of Evidence B).      

 

○アンピシリン、ペニシリン、バンコマイシン、アミノグリコシドに感受性の腸球菌による心内膜炎の治療   
1. アンピシリンか水性ペニシリンGにゲンタマイシンかセフトリアキソンを加えた治療が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).   
いよいよガイドラインにも登場のアンピシリン+セフトリアキソンというダブルβラクタム治療。初めて聞いた時はまさか、と思いましたが臨床試験で効果が確かめられたのでだいぶ推奨度が上がってきました。結合するPBPが違うからだという説明になっています。ところで腸球菌の血流感染症の治療にペニシリンGを使ったことは個人的にはありません。    
    
2. 自然弁の場合は4-6週間の治療が妥当。ペニシリン(アンピシリン)+ゲンタマイシンの治療を開始されるまでにどれくらい症状が続いてたかによる。(Class  IIa;  Level  of Evidence B).      
3ヶ月未満なら4週間、3ヶ月以上なら6週間ということになっています。   
    
3. アンピシリン+セフトリアキソンで治療するなら症状の持続期間にかかわらず6週間が妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).      

4. 人工弁の場合は6週間の治療が妥当。(Class IIa; Level of Evidence B).      
      
5. クレアチニンクリアランスが<50mL/minの場合はストレプトマイシンの使用は避ける。(Class III; Level of Evidence B).      
      
6. Enterococcusがゲンタマイシンとストレプトマイシンの両方に感受性がある場合はゲンタマイシンを選択するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence C).      
      
7. ゲンタマイシンが使えない場合はβラクタム併用療法を用いるのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).
   
腸球菌のIEは高齢者なんかに多いので、腎臓に問題を起こしにくいレジメンを使う機会は増えるかもしれません。

 

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○アンピシリン、ペニシリンに感受性だが、アミノグリコシド耐性の場合。またはゲンタマイシン耐性、ストレプトマイシン感受性の場合      
1. アミノグリコシド耐性腸球菌の場合はセフトリアキソン+アンピシリンを使用するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).    
上述のように「高濃度耐性」です。      
   
2. ゲンタマイシン耐性、ストレプトマイシン感受性の場合もセフトリアキソン+アンピシリンを使用するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B)    
つまりペニシリンとの併用薬の優先順位はゲンタマイシン≒セフトリアキソン>ストレプトマイシン、ということのようです。セフトリアキソンの方が報告されている症例数も多いのでストレプトマイシンよりも優先度が高いだろうというのがその根拠。    
日本では高濃度アミノグリコシド耐性の検査の結果を待つ間にメンドクサイからセフトリアキソンにしちゃえ、みたいなプラクティスが増えるのかな…

 

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○βラクタムが使えないか、ペニシリン耐性の場合のバンコマイシンによる治療      
1. バンコマイシンを投与するのはペニシリンGかアンピシリンの投与に患者が耐えられない場合に限るべきである。(Class I;Level of Evidence B)    
      
2. 自然弁の心内膜炎の場合はバンコマイシン+ゲンタマイシンを6週間、人工弁の場合は最低6週間でそれ以上を投与するのが妥当である。(Class IIa; Level of Evidence B).      
      
3. ペニシリンに自然耐性のE. faecalisによる心内膜炎の場合はバンコマイシン+ゲンタマイシンで治療するべきである。(Class I; Level of Evidence B).
   
残念ですがここにはセフトリアキソンの出番はありません。

 

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○ペニシリン、アミノグリコシド、バンコマイシンに耐性のEncterococcusによる心内膜炎の治療   
1. ペニシリン、アミノグリコシド、バンコマイシンに耐性のEnterococcusによる心内膜炎は、感染症、循環器、心臓外科、臨床薬物学の専門家、必要に応じて小児科の専門家が管理すべきである。(Class I; Level of Evidence C)

 

2. ダプトマイシンによる治療を選択した場合、1日あたり10-12mg/kgの投与を考慮する。(Class IIb;Level of Evidence C).    
ここではダプトマイシンの話になっていますが、選択肢にはリネゾリドもあります(表を参照) 日本でも米国でもダプトマイシンは腸球菌の治療には認可されていません。ご注意を。   
   
3. 血液培養が陰性化しないか、Enterococcusのダプトマイシンに対するMICが感受性の範囲内で高め(3 µg/mL )の場合は、ダプトマイシンとアンピシリンかセフトリアキソンの組み合わせも考慮する。    
ほとんどケースレポートレベルのデータしかない世界です。

 

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次回はその他の微生物編を予定。

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